第19話 覚醒
無言で歩き続ける三人。
ポルコは考えていた。
……フィオの右目が原因でドラゴンが産まれる。蒼龍の地で赫龍に対抗するということか?痛みの原因はなんなのだろう?蒼龍の力に触れることで起こるわけではなかった、ドラゴンに反応して起こる。拒絶なのか……。
フィオは自分を責めていた。
……右目が痛むと同時に意識がなくなる。説明したくても、言い訳みたいで嫌だった。私は何も出来なかった……それだけが事実。あの時みたいにドラゴンを倒す力を使えるのに、私が弱いからエルリックさんは死んでしまった。足りないんだ、多分……思いの強さが。
シーナは怒っていた。
……結局全てフィオが原因ってこと。マスターもママとパパも……違う。マスターの時はそうでも、ママとパパの時は違う。それはわかってる……それに今回の原因がフィオだったとしても、フィオ自身も知らなかったこと。それを責めても仕方ないこと。だけど、赫龍の力は使えたはずだって、どうしても考えちゃう。
それぞれが、胸に思いを抱えたまま事態は思いもよらぬ方へと舵を切る。
歩き続ける三人の目にコークラの街が見えてきた。だが、その手前に大きな飛行船があった。
「龍王の国」の紋章が入った飛行船だった。周りを数人の戦士と魔道士が囲んでいる。そして、数百人の一般人。どうやら、コークラだけではなく各地の街や村から集められた人達だと思われる。
「大きな船……一体アレは?」
シーナが口を開いた。
「わからぬ……だが、選ばれし者達の可能性があるかもしれん、もう少し近づこう」
ポルコが言うと二人は頷き、道をはずれ草村に身を隠すように、飛行船に近づく。
三人に集められた人達の様子が見える。不穏な感じはなく、楽しそうにしているのが、意外であった。
所々で「選ばれし者」との単語が飛び交う。明るい未来を描く弾んだ声ばかりが広がっている。
「やはりか……」
怪訝な顔をしたポルコが呟く。
「アレ」
シーナが指差す方を二人が追っかける。
「ソフィ!いや……」
ポルコが思わず口に出す。フィオが続く。
「エルザさん……」
ポルコの恋人ソフィと瓜二つの女性、以前フィオ達が世話になったその人「エルザ」だった。
「まさか……」
息を飲むポルコ。
「助けよう」
フィオが言う。
「どうやって?」
シーナが慌てるように聞く。
「私達もあの人達に紛れて乗り込もう」
フィオの突発的な考えに同意し兼ねる二人。
「もしも……あの人達が贄で、それが私達が想像する最悪なことだったら……あそこにいる人達はみんな……」
最後まで言いきれないフィオ。ポルコが賛同する。
「そうだ……行こう。だが冷静に……あの人達はこの大陸で集められた人達だろう。雪の国の私がいればすぐに気付かれる。それに、フィオは危険だ、残っててくれ」
その言葉にフィオは激しく拒絶の意志をしめす。
「そんなのイヤ!私にだって出来る事はある……今回は必ず二人の役にたちたい!」
覚悟を決めたフィオの瞳。
「いいかシーナ?」
ポルコがシーナに確認する、何も言えないシーナは小さく頷く。
「では」
そう言うとポルコは自分の髪を両手で撫でる。撫でられた髪は黒く染まっていく。
「フィオとシーナも」
ポルコは順番に二人にも同じ魔法をかける。
「フィオ顔をあげて」
フィオの眼帯が目立たぬように、前髪を伸ばす。
「ありがとう」
フィオがつぶやく。
「ああ、だが気をつけてくれ。効果は私が解かない限り持って三日ほどだ、長居は出来ない」
「わかった。行こう」
フィオが言うと、三人は上手に集められた人達に紛れ込む。目立たぬように、気配を殺し息を飲む三人。少しすると魔道士の一人が話し出した。
「ようこそ選ばれし者達よ、諸君らはこれからこの飛行船に乗り龍王の国を目指す!選ばれし者として龍王そして、世界の為に力を存分に使ってくれたまえ」
話終えると、歓声が上がった。それが、ポルコ達には洗脳されてるような不気味さを感じずにはいられなかった。
「では、こちらから」
兵士の指示で順番に乗り込む人達。全員を乗せ飛行船は飛び立つ。
はしゃぐ人達の話し声の中、三人はかたまり、目立たぬようにしている。フィオの視界にエルザの姿が。
「エル……」
思わず駆け寄ろうとするフィオの手を掴むポルコ。
「ダメだ!誰とも接触してはいけない……」
押し殺した声でフィオに釘を刺す。
「ごめん」
小さく謝るフィオ。
半日ほどたっただろうか、どこからともなく歓声が上がった。
「見えたぞ!」
「うわー!」
それに釣られるように、窓の外を覗き込む三人。
美しかった……空よりも蒼い龍王の城
あまりの美しさに言葉の出ない三人だった。外を眺めたまま飛行船は着陸体制へと入った。それを合図に気を引きしめるポルコ。
「こっちへ」
二人にそう言うと、一番人が固まっている箇所へ紛れ込む。
飛行船が着地する、少しの振動でふらつく人達。出口が開き外へと促される。数人の兵士が列をつくりこちらを見ていた。全員が降りたのを確認し、魔道士に指示を仰いだ。
「諸君、ご苦労であった。この扉の向こうに広間があるそこで今しばらく待たれよ」
言われた通りに行動する。行き着いた先は、美しい城の外見とは違い、重く冷たい雰囲気だった。そこで、列に並ばされ、誰かの登場を待った。壁に並んだ兵士等の視線が、見下しているようで気分が悪かった。
広間の奥の方から足音が聞こえてくると、張り詰めた空気が広がるのがわかった。魔道士が声をあげる。
「龍王の国、四大魔道士の一人アルザナーザ様である」
「何!」
ポルコは思わず声をあげた、フィオとシーナがポルコに視線を移す。
アルザナーザを見て人々は歓声を上げた。美しい銀色の髪に整った顔立ち、女性だけでなく男性も思わず息を飲むほどの美しさ。
歓声のおかげで、ポルコの声はかき消されていた。
「どうしたの気をつけて」
シーナが小声でポルコを戒める。
「すまない」
謝るポルコを心配そうに見つめるフィオ。アルザナーザが口を開く。
「諸君、初めまして。私はアルザナーザ、長旅ご苦労であった。疲れを癒してと言いたいところではあるが、早速諸君等に頼みたい仕事がある」
少しざわつく人々。張り切る人もいれば、休ませろとぼやく人もいる。それらを全て黙らせるアルザナーザの次の一言。
「諸君等の命を蒼龍に捧げるのだ」
静まる人達、唖然とした表情。そして、青ざめるフィオ達。
「やはりか……」
ポルコがつぶやく。
「蒼龍の為に働けって意味ではなさそうね」
シーナが言う。
「ああ、言葉どおりだろう」
ポルコが答える。相手の出方を待つ三人。薄笑いを浮かべながらアルザナーザが言葉を繋げる。
「理解していただけたかな?嬉しすぎて言葉も出ないようだ」
一人が声をあげる。
「それは私達に何をしろと言うのですか?」
アルザナーザが答える。
「何もしなくて結構。ただ命を捧げてくれるだけでいい……わかりやすく言おうか、今すぐここで死んでくれ」
目の前の出来事が信じられない人々。さっきまでの期待に満ちた表情が、絶望へと変わっていく。誰かが悲鳴をあげる。それにつられるように、誰もが叫び声をあげる。出口に向かう人もいる、兵士が固く守る扉。先頭を走る男性に兵士の槍が突き刺さる、床を染める鮮血に悲鳴が何倍にもなって響く。
「こら、お前が殺すでない!先に捕らえた千五百の奴らと一緒に殺すんじゃ」
信じられない言葉が魔道士の口から飛び出した。喧騒の中、フィオは眼帯を剥き右目をさらけ出す。
「産まれて、ドラゴン……」
そう願った。
足掻く人達に数人の魔道士が魔法をかける。人々はいっせいに意識を無くしその場に倒れ込む。残ったのはフィオ達三人だった。
「ほっほーあれに耐えるやつがおるとは、今回の贄はなかなかだな」
魔道士の一人がフィオ達を見て言った。ポルコは即座に言葉を返す。
「贄とはなんだ?」
その声にアルザナーザが反応する。
「ハハハッハ……まさかこんなとこで兄弟子に会おうとは思わなかったぞ」
睨むポルコ。フィオとシーナはポルコを見つめる。
「人違いであって欲しかったが、そうではないらしいな……一体どういうつもりだアルザナーザ!」
ポルコの訴えを嘲笑うようなアルザナーザ。
「見ての通りだ兄者よ、私は龍王様の為にここにいる」
歯を食いしばるポルコ。
「ここで一体何をしてると聞いている!贄とはなんだ!答えろ!」
ククッ……。不敵に笑うアルザナーザ。
「聡明な兄者のことだ気づいてるだろうが、私がはっきりと教えてやろう。蒼龍を縛る結界を維持するために一年に一度、数千人の命が必要となるのだが、今年はどうも消耗が激しくてね、追加で集めたというところだ」
ゾッとした。想像はしていたが、実際にそうだと知ったら、ショックを隠せなかった。
「ひどい……」
フィオがうなだれる。
「その言い方はあんまりではないかねお嬢さん」
フィオを見てアルザナーザが言う。そして、続ける。
「その命があるから貴様ら、いや世界中全ての人間が魔力を使い、何不自由ない生活ができているんだ」
「そんなの間違ってる!」
フィオが叫ぶ。
「その通りだ!そんな事をしてまで人々は魔力を使いたいとは思わない!貴様らが自分らの地位と権力の為そうしているんだろう!」
ポルコが続く。それを、嘲笑うアルザナーザ。
「なんとでも言うがいい。だがこれが、世界の真実であり全てだ。数千年の時を世界はこうして過ごしてきたのさ、これからもな」
言い終えると、アルザナーザは殺気のこもった言葉で。
「お前達は今ここで殺す」
それを合図に周りの魔道士がいっせいに杖を向ける。身構える三人。
「……痛い」
突然、右目を押さえるフィオ。
「間に合った……」
小さくつぶやくと、雷鳴が鳴り、風が吹き荒れる。固く閉ざされた扉が勢いよく開かれる。衝撃で飛ばされる兵士。
「ま、まさき貴様!」
アルザナーザはそう言ってフィオを睨みつける。
フィオは、飛びそうな意識を堪え、眼帯をめくり、赫眼を見せつける。
「殺せーーー!赫龍の娘だ!」
ざわつく魔道士達と戦士達。いっせいに攻撃をしてくる。
シーナの魔法で戦士を吹き飛ばし、ポルコの魔法で防御壁を作る。
「大丈夫かフィオ」
ポルコが問いかける。今にも意識が飛びそうなフィオは苦悶の表情を浮かべるが、あがらうように笑って答える。
「大丈夫…少しだけ待ってて。私
ドラゴンの元へ」
そう言うと、防御壁を抜け出し扉にかけて行くフィオ。
「させるか!」
アルザナーザが炎を飛ばす、それを、ポルコが打ち消す。
「フィオは何をする気?」
シーナが問う。
「わからん。だが、信じよう」
ポルコが答える。
休むことない攻撃が二人を襲う。倒れた人達の中に犠牲者が出る。
悔しそうに目を背けるシーナ。
「シーナ!」
ポルコが激を飛ばす。魔力を全開にし、防御を続けるポルコとシーナ。
「フィオ……早く……」
フィオはドラゴンと対峙していた。冷たく鋭い眼球がフィオを捕らえる。右目の痛みは限界を迎えていた。
強い思い……フィオは自分い言い聞かせる。
フィオ……助けが必要か……
フィオの頭の中で声がする、赫龍だ。
「力を……力を貸して、赫龍」
フィオが言うと、右目が赫く輝くそれが全身に広がる。
右目の痛みが治まる、穏やかな何かがフィオの心を満たす。
それに反応するかのように、ドラゴンが暴れ出す、咆哮を浴びせるがフィオを守るオーラがそれを防ぐ。フィオは浮き上がり、ドラゴンに近づく。顔の近くまで行き額を撫で語りかける。
「私は、敵じゃない……あなたの仲間、赫龍です。お願い、私に力を貸して」
フィオの赫いオーラがドラゴンを包む、あがらうように叫ぶドラゴン。次第に落ち着き、ドラゴンから発せられていた禍々しさが薄れていく。憎悪が消える、怒りが、悲しみが消えていくドラゴン。
冷たく鋭い眼球は、穏やかさを満ちた愛くるしい瞳に変わる。
まるでフィオに笑いかけるようにフィオを見つめるドラゴン。
「いい子……行こう」
優しくつぶやくフィオ。
「もうダメ……」
膝をつくシーナ。
「堪えろ……もう少し」
ポルコが励ます。
「ポルコ!シーナ!」
フィオの声が響くと、続いてドラゴンの雄叫びが。
「アレ!」
シーナが上を見上げる。フィオがドラゴンに乗ってやってきた。
「フィオ!」
ポルコが声をあげる。
アルザナーザが怒りに満ちた顔で、フィオに炎を飛ばす。が、ドラゴンがそれを咆哮で打ち消す。周りの魔道士と戦士はそれを見て、恐怖におののく。
「やって」
フィオが言うと、ドラゴンがアルザナーザを攻撃する。あまりの衝撃に倒れ込むアルザナーザ、逃げ出す魔道士達。
「貴様ら、どこへ行く」
叫ぶアルザナーザ。辺りには倒れた数百人の人々と逃げ惑う魔道士達。
「どうしようポルコ」
シーナが言う。
「フィオこの人達を運べるか?」
ポルコがフィオに問う。
「飛行船に乗せよう!そうすればこの子が運んでくれる」
「よし!」
そう言うと、ポルコは白い杖を取り出し、クルクルと回して呪文を唱える。光が辺りを包むと、倒れていた人達が起き上がり出す。
状況を理解出来ない人々、ドラゴンの姿に叫ぶ人もいる。
「みんなこっちに!お願い!飛行船に乗って!」
フィオが叫ぶが、誰も動こうとしな
い。頭が追いつかないのだ。そんな中、一人の女性が声をあげた。
「フィオちゃん」
エルザだった。フィオに気づいたエルザは声を張り上げる。
「みんな死にたくなかったらあの子の言う通りに!」
死という言葉が人々に思い出させる。恐怖が襲う、いっせいに逃げ出す人々、アルザナーザが立ち上がる。
「行かせるかー!」
魔法を放つ、誰を狙った訳でもない範囲魔法が辺りを火の海へと変える。ポルコが出口までの道を作る。
「落ち着いて!大丈夫!私達が守るから落ち着いて!」
シーナが精一杯声をあげる。
騒ぎを聞きつけ、城の魔道士が集まる。気づいたフィオがドラゴンと共に応戦する。
ドラゴンの咆哮がほとんどの魔道士を戦闘不能にした。だが、アルザナーザが立ちはだかる。
アルザナーザは、怒りに満ちた顔でフィオを睨むと雄叫びをあげた、アルザナーザの拳が光りだす。例の指輪だ。
「もうよい……」
誰かが、アルザナーザを制する。
それを見たフィオを寒気が襲う。
見たものが恐怖しか抱かないであろう風格に、殺気に満ちた視線。
「しかし、龍王様」
アルザナーザの絞り出した声。
龍王……アイツが。
「フィオ!いいぞ!急ごう!」
ポルコだった。フィオはドラゴンとその場を離れる、視線は龍王から離さずに……
あれは?龍王が首から下げた蒼い瞳のネックレスが見えた。
人々を乗せた飛行船をドラゴンが両足で掴み飛び立って行った。
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