第18話 仲間割れ

 足音が二つ、フィオとシーナだった。跪いたまま動かないポルコをただ見つめる。先程まで村だったそこは、ただの砂地と化していた。


 ポルコの様子で既に察していたが、それでもと可能性を信じてシーナが問いかける。


「マ、マスターは……?」


 自分でも驚くほど弱々しい声しか出なかった。ポルコは握ったペンダントを無言でシーナに見せた。震えるその手が悔しさ、そして、寂しさを伝える。シーナは、その手をそっと包んだ。エルリックの笑顔を思い浮かべて……。


「魔力大爆発……自爆だ」


 不意にポルコが語った。


 その言葉に抱え込んでいた思いがゆっくりと沸騰するかのように湧き上がるシーナ。ダメ……ダメだ……。言ってはいけない……。だが。


「……フィオ……」


 目線を下げたままシーナがフィオに呼びかける、堪えきれなかった……。不穏な空気がフィオを包む。言葉の出ないフィオにシーナは続ける。


「赫龍は……手伝ってくれるんだよね?そういったんだよね?」


 ポルコが思わず口をはさむ。


「やめるんだ!シーナ!」


 涙を溜めシーナは反発するように。


「だってそうじゃない!フィオが力を使っていればこんなことにはならなかった!どうして!どうして……」


 それ以上、言葉が続かないシーナ。少しの静寂の中、フィオが小さく。


「……ごめん……ごめんなさい」


 誰も、何も言えなかった。


 三人はその場から動けずただ時間だけが、流れていた。


 最初にその気配に気づいたのはポルコだった。


「やっと気づいたか……」


 嘲笑うかのような口調で誰かが話しかける。


「産まれたてのドラゴンを倒したヤツがいると思ったら、仲間割れとは。哀れだな」


 男はずっと前からそこにいた。その事に誰も気づかなかった。長身で褐色の肌、身に纏う鎧はジェンダと同じもの。


「オレは、龍王の国、四大魔道士の一人ガイルだ……」


 身構える三人を気にせず、ガイルは話しを続ける。


「産まれたばかりのドラゴンってのはな、超〜強〜えんだわ!あんなの捕らえて来いって言われた時はよ、勘弁してくれよ〜って思ったけど……流石は世界に名を馳せる雪の国のエルリック大魔道士様!助かったぜ〜!ま……その本人も消えちまったみたいだけどな〜」


 ポルコの逆鱗に触れる。


「貴様ー!」


 立ち上がるポルコを嘲笑うように。


「おいおい、やめとこ〜ぜ。オレにその気はねーんだからよ」


 不敵な笑みを浮かべるガイルは、フィオに視線を移す。気づいたフィオは、無意識に後退る。その姿に満足気な笑みを浮かべるガイル。


「よ〜嬢ちゃん、もう勘弁してくれよ」


 ガイルの言葉にポルコが反応する。


「どういうことだ?」


 自慢気にガイルが答える。


「だから〜、無闇にドラゴンを産んでくれるなって言ってんの」


 ズキン……フィオは心臓を握りつぶされるような衝撃を受けた。


 怯えるフィオを見据えたまま、ガイルは続ける。


「あんたさ〜それ出したよね?」


 そう言いながら、フィオの右目を指さす。


「わかんねーかな。あんたのそれに、反応してドラゴンが産まれんだよ!」


 不覚……ポルコは自分を責めた。ジンに見せるように言ったのは自分だった。


「バカな……」


 苦悶の表情のポルコを見下すように。


「あんたら、なんも知らねーんだな」


 そう言って、ガイルは笑った。


「じゃあな……オレが受けた命令はドラゴンの捕獲ってだけで、赫龍の娘を殺せとも、連れて来いとも言われてねーから、帰るわ」


 思いもよらぬガイルの言葉だった。自然と力の抜けるポルコ。そんなポルコにガイルは、一瞬で距離を詰める。ポルコの髪を掴み。


「お前……今、ホッとしただろ」


 それまでのふざけた口調とはうってかわり、殺気を存分に含んだ声だった。


「くっ……」


 抵抗しようとするポルコを思いきり蹴飛ばし、高笑いしながら去って行くガイル。それを見ているだけの三人だった。


 しばらくすると、村の人達が戻ってきた。村だったはずの場所を見て、誰もがショックを隠せなかった。


 だが、村人達は誰もが。ポルコ、フィオ、シーナに心から感謝していた。そんな感謝の言葉を素直に受け止めることが出来なかったフィオとポルコだが、だからと言って何も言えずに、コークラに向かうという村人達を見送った。


 その日は、そのまま夜を越すことにした。寝付くことの出来ない三人。ポルコが


「予定通り、コークラに向かおう」


 そう言っても、誰も答えなかった。


 それぞれが、後悔と自責の念で押しつぶされそうだった。解決の糸口も見つからず、どうしたいのかもわからずただ夜が過ぎていった。


 朝を迎えた、マントを片付ける時。フィオの手がシーナにあたって。


「ごめん」


 咄嗟に言ったフィオにシーナは無反応だった。


 明日の見えない、重い一歩を踏み出し、三人は街を目指した。




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