第16話 蒼い瞳を持つ者

 フィオ達は、シモンセキの反対に位置するもうひとつの港町「コークラ」を目指していた。


「シーナ行ったぞ!」


「任せて!」


 道中、魔物との遭遇。数をこなす度に二人の息はピッタリと合うようになっていた。


「この辺は魔物の出現が多いな」


 魔物を倒し、汗を拭いならポルコが言う。


「そうだね、でもいい修行になるよ」


 シーナが言うと、フィオは嬉しそうに。


「ほんっと二人とも息ピッタリだね」


 と微笑む。


 ガサ……。木の陰から物音が。


「フィオこっちへ」


 ポルコが自分の後ろにへとフィオを誘導する。


「まった、まった!」


 出てきたのは人間だった、体格のいい中年の男性。


「お前さんがたどこぞの国の魔道士様か?」


 唐突に男は尋ねた。


「いや、どこの国にも属さなし魔道士でもない」


 警戒しながらポルコが答える。


「どうかお願いします!村を救ってくだせい!」


 突然の土下座に目を丸くするフィオ達だった。


 男は「アルズ」と名乗った。この近くにある「エンク村」に住む農夫だそうだ。どうやらここ最近、村に頻繁に魔物が出没し村人達が困り果ててるとの事。それをポルコ達に退治して欲しいという願いだった。


 詳しい話は村で、ということでフィオ達は、アルズに連れられエンク村へと向かった。



「なんか懐かしいな……」


 村についてフィオがつぶやく。


 確かに、とポルコは思った。ここは、どことなく「ルーラ村」に似ていたからだ。


 アルズの自宅に着き、中へと案内された。中には、アルズの妻である「ニーナ」がいた。ニーナの煎れてくれたお茶を囲いテーブルに着いた。


「最近とはいつ頃から?」


 ポルコが尋ねた。


「十日くらい……だよな?」


 とアルズはニーナの方に顔を向ける。


「ええ……毎日のように。村の男達でどうにか追い払っていますが、負傷者も増え……コークラに街の魔道士を頼んでいるのですが、未だに……」


 ニーナは力なく答えた。


 十日……ドロイを倒した時期と重なる。何か関係が……


 ポルコの脳裏に不安がよぎる。ポルコは別の質問を夫妻にぶつけた。


「以前もこんな事が?」


 夫妻は互いに目を合わせる。アルズが答える。


「あれは、もう何年も前になる……ほら!ジンのとこに長男が産まれてから……どのくらい前だ?」


 と、またもやニーナの方を見る。


「タケルと同い年ですよ……十五年前です」


 ……!十五年!その数字にポルコとフィオが反応する。


「十五年前にいったい何があったんですか?」


 少し強めに尋ねるポルコに、アルズが答える。


「何がってことではないが、今と同じように魔物が頻繁に出るようになってな。それがちょうどジンってやつの家に長男が産まれてからなんだよ。その後にウチのも産まれたんだが、タケルって言ってな、今は街に働きに出てるんだが……」


 アルズの話を遮るようにポルコが尋ねる。


「それで、そのジンさんの息子は?」


「いねーよ」


 素っ気なくアルズが言う。


「いない?」


「ああ、いねーんだよ。産まれて直ぐに龍王の国に連れてかれたらしいんだよ。まだまだ赤ん坊なのによ、選ばれし者っていうのか?すげーことなんだろ?」


 尋ねるアルズに、何も返せないポルコ達。かまわずアルズが続ける。


「でもよ、おかしいんだわ。ジンのとこの息子をよ、誰も見たことないってんだ!誰が祝いに会いに行っても、体が弱いからとかで会わせてくれなかったんだと。そうこうしてたら龍王によ……」


 アルズの語る話に動揺を隠せないポルコ。


「どうした?そんな難しい顔して」


 そんなポルコを気にしてアルズが尋ねる。


「いえ……それで今ジンさんはどちらに?」


「ジンか、ほら」


 と窓の外を指差すアルズ、その先に夫婦で畑を耕す姿が。


 ポルコはフィオに視線を送る、目を合わせ小さく頷くフィオ。


「行こうフィオ。シーナはここに」


 そう言って、フィオとジンの元へ向かうポルコ。


「一体どうしたってんだ?」


 アルズがつぶやく。



 細い体、慣れた手付きでくわを振るジンの前に、フィオを連れて立つポルコ。


「お仕事中失礼。あなたがジンさんん?私は、ポルコという者です。この子は、フィオ」


 フィオが小さく頭を下げる。


「や〜あんたが魔道士の!いったいなんの用で?」


 少し躊躇いながら、ポルコが切り出す。


「……息子さんのことで、伺いたいことが」


 手が止まり、暗い表情のジン。


「あんた達はいったい?龍王の?」


「いえ、違います」


 アルズの話しと、ジンの反応で確信を得たポルコは、見せるのが早いと思い。


「フィオ、いいか」


 そう言うと、フィオは眼帯に手をかけ少しの隙間を作る。そこから漏れる赫い瞳がジンにもわかった。


 驚くジンは慌てるように、ポルコとフィオを家の中へと連れていく。


「その子は?」


 慌てながらポルコに問うジン。


「彼女はフィオ。この大陸にルーラ村で産まれた女の子です。今年で十五になります」


 驚きを隠せないジン。


「じゃあうちの息子と……」


「はい。同い年です」


「すまねぇ……もう一度見せてくれ」


 ジンに言われ、ポルコを見るフィオ。ポルコが頷くと、もう一度眼帯に手を伸ばし、今度は完全に赫い瞳を露わにする。


「あかい……目」


 ジンがつぶやくと、ポルコがすかさず。


「息子さんもそうだったのでは?」


 ポルコの目を見て、首を振るジン。その反応でポルコは早まったと後悔した。まさか……。しかし、ジンの言葉で間違いでなかったと知る。


「ウチの息子の目は……青かったんじゃ……左目がキレイな蒼じゃった」


 ポルコとフィオに戦慄が走った「蒼い瞳」可能性があるかもしれないとは思っていた。しかし、本当に存在したとは!しかも、フィオが産まれた大陸と同じ場所で。


 それから、ジンの妻「カエデ」も呼び四人で話した。


「イチキが産まれたのは、嬢さんと一緒、十五年前じゃ。初めは驚いたさ、青い目をしてたからな。それでも可愛い息子には変わらんじゃった。しかし、イチキが産まれてから村に魔物が増えだしての、まさかこの子と関係がと思うと、怖くて誰にも会わせれんかった」


 ジンの話しを静かに聞くポルコとフィオ。


「それから一週間ほどたってからかの……新月の夜じゃった。突然、龍王が訪ねて来たんじゃ……そりゃ驚いたさ、こんな田舎の小さい村にあの龍王が現れたんじゃ。そして、言ったんじゃ……イチキは特別な子だと、蒼龍の生まれ変わりだと。そして、産まれたばかりイチキを連れて行ってしもうた」


 新月の夜……蒼龍……蒼眼


 ポルコとフィオにとって身の毛がよだつほどの言葉の数々、考えがまとまらないポルコ。予想以上の出来事がそこにあった。


 そして、フィオが産まれたと同時に誕生した蒼眼を持つ者。やはり世界に異変が訪れていることを確信した。


「おーい!隠れろ!魔物だー!」


 突然、誰かの叫び声。慌てて外を確認するポルコ、魔物の大群がそこまで来ていた。


「皆はここで!」


 フィオ、そして。ジンとカエデに告げ、外に飛び出す。シーナも駆けつけ臨戦態勢をとる。


「デッド・ラビットか……小さい個体で力も弱いが群れで活動する。一匹でも逃すとまた仲間を呼ぶぞ」


「オッケー!ポルコ!じゃあ私は左から」


「わかった……では」


 二人は左右に別れ、中央に追い詰めていく作戦をとった。元は動物、炎に弱い。炎の範囲魔法で、徐々に追い詰めていく。


 最後の一体が小さく鳴き、息絶えた。


 それぞれ、家や小屋の中に隠れていた村人達が声をあげ喜び、二人を称えた。


「うおー!あっという間だ!」

「強ーぞ!どこの魔道士だ」

「死体がキレイなやつは今夜の晩飯だ〜」


 連れて来たアルズが一番誇らしげにしていた。フィオがやって来る。


「カッコイイ!あっという間だったね!」


 誇らしげにシーナが答える。


「任せなって!」


 じゃれ合う二人を見つめるポルコ。


 しかし、突然フィオがうずくまる。


「痛い……」


 右目を押さえるフィオ。


 ポルコとシーナに悪寒が走る。


「フィオ!フィオ!」


 二人の呼びかけに答えることが出来ないフィオ。


 雷鳴が轟いた……辺りは暗くなり、強風が吹き荒れる。


 目を合わせ、ポルコとシーナは身構える。


 息を飲むシーナ。


「来るぞ」


 ポルコが呟く。


 ドラゴンが……現れた。







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