第15話 晴れない疑念

 城に残り数日が過ぎたある日。雪の国から使者が訪れる。名前は「ワッツ」国王の側近の一人だ。


 姫はあれから随分と回復した。見た目はまだみすぼらしさが残るが、フィオやシャンテとよく話すようになり時折、笑い声も聞こえてくる。


「こちらが姫様ですか?」


 ワッツがポルコに尋ねる。

 姫は立ち上がり。


「初めまして、フェールと申します」


 軽い挨拶を済ませる。


 みなが集まり今後について話し合う。


「ポルコ殿一行は直ぐにでもここを離れた方がいい」


 ワッツが言ったことを、ポルコ達も考えいた。なので、雪の国の返答があれば直ぐに発つつもりでいたのだ。ここは既に龍王の国の支配下にあることが明白である。

 ドロイを倒した今、次の刺客がいつ現れてもおかしくはない。


「しかし、王不在でも国はまわるか……」


 ワッツが難しい表情で独り言のように呟く。


「はっきり言って、この国を雪の国でどうにかすることなど出来ません

 。今回私が訪れたのは、姫を雪の国へ連れて行く為です。それと王子もですよ!」


 最後の言葉を強調して話すワッツから目を逸らすシャンテ。


「私を?」


 フェールが驚いた表情で聞き返す。


「ええそうです。姫……あなたがなぜ投獄されていたのか理由がわからぬ以上、亡くなったことにして雪の国へ避難する。これが雪の国の王の考えでございます」


「確かに……」


 ポルコが頷く。そして気になっていたドロイの言葉をフェールに尋ねた。


「姫、贄という言葉に聞き覚えは?」


「にえ?ですか……わかりません」


 一同の視線がポルコに集まる。


「失礼しました、あのドロイが姫のことをそう言っていたので」


「贄……ですか?その言葉からは、あまり良い印象は受けませんな」


 ワッツの呟きにシーナが反応する。


「生贄とか?な〜んて」


 ふざけて誤魔化したが、切っ先を向けられたような緊張感がその場に走った。


「まさか……」


 そんなバカなこと。と言いたそうな顔でポルコが否定するが、一抹の不安はあった。それは、その場にいた皆がそうであった。


「仮にそうだとして、何のための……」


「生贄」とは続けなかったワッツ。フェールに配慮してのことだろう。


 この時点で、ポルコ。そして、シーナにも考えたくはない事態が目の前にあった。アルクの姉のことである。


 アルクに家族のことを尋ねた時、姉は龍王の国に連れてかれたと自慢気に話していた。

 龍王の国に連れていかれるということは、世界中の人々。ここでは龍王の国以外の人という意味だが、その人等にとってそれは、喜ばしいことであった。


 シーナの脳裏に、アルクの姉が家を出る前、嬉しそうにおめかししていた光景がよみがえる。


「もしや…」


 ワッツが口火を切る。


「我が国でも年に数十人単位で龍王の国に連れて行かれる者がいます。それは、世界中で起こっていることだと思いますが。龍王の国に仕えるのは、特別に蒼龍から選ばれた者だけだと教えられてきた。だが……」


 それを否定するようにポルコが語気を強め。


「しかし理由がない!」


 少しの沈黙のあと、それを破るようにまたしてもワッツが口を開く。


「姫、この国で龍王の国に使いに出て戻ってきた者は?雪の国にはいません……」


 フェールが答える。


「いえ……いません。それが当たり前だと言われてきました」


 何千年もそれがこの世界の常識であった。選ばれた者は名誉な職に就きその地で人生をまっとうする。誰が言い出したか知らないが、それがこの世界の当たり前だったのである。


「いや……考えるのはよそう」


 ポルコが言う。それに賛同するようにシーナも続いた。


 誰しもの頭に中に可能性はあったがそれを肯定する理由がなかった。いや、理由などいらなかったかもしれない。ただ認めたくなかったのである。


「それを探るのも必要になるかもしれない」


 ポルコが呟く。


「最悪な可能性を否定するためにも」


 とポルコは続けた。シーナが強く頷く。


「私も、内密に調査できないか王に伺いましょう。ポルコ殿も何か掴んだら……」


 ワッツの言葉にポルコが答える。


「そのように……」


 話し合いが終わり、それぞれがここを発つ準備をする。


 フェールは、ワッツの言うように雪の国へ向かうことにした。そして、シャンテも。


 フィオ達に別れを告げるシャンテ。

 ここまでの旅路、ドロイとの戦闘で思い知ったのか、わがままは言わず素直にワッツに着いていくシャンテをフィオ達は少し寂しく思った。


「フィオ……僕はいずれ王になる。国の為の、国民のための王になる!だから、強くなる!友達を守れるくらい強くなる!」


 力強い言葉だった。

 フィオは優しい笑顔でシャンテを抱きしめ。


「友達との約束は絶対だよ」


 ワッツ達を見送りフィオ達も次なる旅へと出発する。


 街を抜け、次なる街を目指す道中。


「あ〜変な話になったせいで、アルクのこと聞けなかったよー」


 シーナが嘆く。


「きっと元気にやってるよ」


 フィオが言う。ポルコも同じように。


「アルクなら大丈夫さ」


 そして、ポルコはフィオについて気になっていたことを尋ねる。


「フィオ、右目は大丈夫だったのか?」


 何が?という表情を浮かべるフィオ。その表情に


「いや、痛くならなかったのかと思い」


 なぜか気まずそうにかしこまるポルコ。


「あ!そーいえば大丈夫だったフィオ」


 とシーナ。


 思い出したかのようにフィオが


「そうだね。全然痛くならなかった、新しい眼帯のおかげかな……」


 と眼帯をさするフィオ。


「蒼龍の力ではなく、あのドラゴンに反応したのかもな」


 と、ポルコ。


「う〜ん」


 と、難しい顔で考えるフィオ。


「また出会うかな?ドラゴン」


 フィオの言葉に過剰に反応するシーナ。


「イヤー!あんな怪物、二度とごめんだよ」


 と言いつつ、赫龍の事を思い出す。

 アレに比べればだいぶマシか……「まがい物」ね……。エルリックの言葉が頭に浮かぶ。


 少しづつ最終目的である蒼龍を目指し、新たなる旅は始まったばかりだ。



 第十五話 終








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