第14話 決着

 お互い牽制し合うように出方を探っている。

 炎を放てば水を放ち、斬撃が来れば盾を出す。


「聞いてた通りの魔力だ。この程度なら力を使うこともなさそうだ」


 相変わらず薄気味悪い笑みを浮かべ、ドロイが語る。


 ……力


 ポルコにとって懸念すべきはその「力」であった。ジェンダの時のように、とてつもない魔力を使われればおそらく負ける。フィオの赫龍の力に頼ることは今は避けたかった。今のフィオにそれは危険だと思ったからだ。

 だが、何も対策がないわけではなかった。


 戦闘の中、ポケットの上から手をあてそれがあることを確認するポルコ。


 〜出発前日パラディン〜


 エルリックと大司そして、ポルコ。


 ポルコに何かを渡すエルリック。


「ゾーラと共に考え作ってみたんじゃ。まだまだ試作品だがの」


 杖、それもとびきり小さい親指ほどの杖だった。


「使い方は簡単じゃが問題もある」


 と大司。


「問題ですか?」


 とポルコ。


「うむ。龍脈に確実に差し込むことが必要なんじゃ」


 シーナが視える者でなくなった今、それがどれほど難しいことか想像するのは容易かった。


「だが効果は確実じゃ」


 とエルリック、そして続ける。


「あの指輪に集まる魔力をこいつの方に向けさせる。小さいがあの時ワシとシーナでした時よりも、耐久はあるはずじゃ」


「じゃがの……」


 と大司が割って入る。


「もって五分が限界じゃろう。仕組みは単純、作るのも簡単じゃったが。ワシらの魔力ではこれが限界じゃな」


「いえとんでもない」


 とポルコ。


「ワシは、しばらくここに残ってゾーラとソイツを研究することにするわい」


 とエルリックが言うと。


「何を勝手に!邪魔じゃ帰れ」


 と大司が返す。ポルコはそんな二人に笑みがこぼれた。


「気をつけるのじゃぞ」


 二人に言われる。



 〜ルーザニア城内〜


 奴が「力」を使う前に全力でやるか……いや、そんな甘い相手ではないな。


 牽制し合う戦いの中、どこで本気を出すか思案するポルコ。


 もって五分……。ここに全力を注ぐことになりそうだ。

 幸いな事に、扉はドロイの魔力で固く閉ざされているので手下も入ってこれない。フィオ達に今のところ危険はなかった。


 ドロイの攻撃が強さを増す。


「カッカッカ、この程度の攻撃も防げないのか」


 憎たらしい口調だ。


 ポルコの防御壁を崩し、マントが切れる、睨みつけるポルコ。

 すぐさま反撃する。

 炎の刃が幾重にも重なり次から次にドロイを襲う。

 ドロイの防御壁も崩れ、軽いやけどを負った。


「少しはやるようじゃ」


「よく喋るジジィだな」


 と、もう一度同じ魔法を放つポルコ。だが、次は斬撃に紛れて氷の魔法も飛ばしていた。


 足に命中し足元が凍るドロイ。身動きが取れないドロイにここぞとばかりに集中砲火を浴びせるポルコ。


 炎が刃が氷の槍が、次々にドロイを襲う。堪らなく悲鳴をあげるドロイ、それでもポルコの攻撃は止むことはない。


 できることならこのまま……。


 倒れてくれ!


 そう願って全力で叩くポルコ。


 集中砲火の最中、遂にドロイの悲鳴が聞こえなくなった。だが、次の瞬間。


 ドロイから蒼い光が放たれる。


 きたか…。


 ポルコが危険を察知する。


 魔法を放つ手に力がこもる。だが、ポルコの手から魔法が止まった、ピタリと……。それは、ポルコの意思ではない。ポルコは今でも魔法を放っているつもりだったが、どういう訳か一切何も出ないのである。


「なんだ……これは」


 動揺するポルコを嘲笑うように、ドロイは光る指輪をチラつかせ。


「これが私の力……この空間は私が支配した」


「どういうことだ!」


 とポルコに対し誇らしげにドロイは答える。


「わからんのか〜、哀れだの銀髪!」


 と言いポルコに魔法を放つ。防御しようと魔法を使おうとするが、やはり出ない。ドロイの魔法が直撃しポルコが唸る。


「まさか……」


 と、傷ついた左肩を押さえるポルコ。


「そうだ!貴様らの魔力を封じたのだ!このワシの力で!」


 そう言ってもう一度、蒼く光る指輪を見せるドロイ。


「そんなことって!」


 とシーナが叫ぶ。そんなシーナに答えるように、ドロイは自慢気に語り出す。


「ジェンダのようなバカには、魔力を高めることしか出来なかったが、私は違う。蒼龍の力があればなんでも可能じゃ!」

「どうだ怖いか!?何も出来ず、このまま恐怖に飲まれ苦しんで死ぬがいい!」


 と、高笑いするドロイ。


 ポルコ達に緊張がはしる。


「フィオ、赫龍を」


 シーナがフィオに尋ねる。だが、フィオが答えるよりも早くポルコが指示を出す。


「待て!シーナなこれを」


 そう言って、例の杖をポケットから取り出しシーナに渡す。


「これは?」


 と、問うシーナに簡単に説明するポルコ。


「やはり…難しいか」


「ごめん、何も視えない」


 シーナが俯く。たとえ視えたとしても、魔力を封じられている以上どちらにせよ視ることは出来なかったが、それを考える余裕もなかった。


「だけど……」


 シーナが小声で何かを言っている。自信なさげな声だったが、少しの希望が見えた。


「なにをごちゃごちゃと言っておる!」


 ドロイが迫る。


「まず誰から逝くか話し合ってたのか?そんなことは、こっちが決める。余計な気をまわす必要はないぞ」


 すでに勝ちを確信した顔だった。こぼれる笑みを抑えきれず、嫌悪するほどの表情を向ける。


「ホレ!」


 距離を縮めながら、ポルコ達にドロイが魔法を放つ。ただの魔力の塊、なぶり殺すため最大に手加減してだ。

 皆を庇いポルコが一人でそれを受ける。


「ポルコ!」


 フィオが思わず叫ぶ。が、ポルコはフィオに小声で。


「大丈夫だ。勝機はくる」


 そう言うと、シーナと目配せをし。


「頼んだぞ、シーナ」


 シーナが小さく頷く。


 今度はポルコだけを狙って同じ魔法が放たれる。

 腹部に当たりうずくまるポルコに、シーナが寄っていく。


「ポルコ大丈夫!」


 そんなシーナをドロイが蹴飛ばす。


「邪魔だよ、お嬢ちゃん」


 ポルコを見下すドロイの勝ち誇った顔を睨みつけるポルコ。


「ようやく仇が討てる、後悔しながら逝くといい」


 ドロイが右手に魔力を集める、鋭い刃が形成される。それを振り上げた瞬間。


「今だ!」


 ポルコが叫ぶ。

 シーナは起き上がり、両手に握った杖をドロイの足に刺す。


 ほんの一瞬、何が起こったか理解が追いつかないドロイ。

 その隙を逃さずシーナは杖の刺さった足の方に氷魔法で杖ごと凍らせる。


 シーナが魔法を使ったことで、自分の足に刺さってる杖が何かを理解したドロイだが。凍った足を解凍するか、ポルコにとどめを刺すか。ほんの一瞬の迷いが生じた。


 それが命とりだった。


「シュバルツ!」


 ポルコの放った魔法がドロイの心臓を貫通した。


「ゲホゴホ……な、なぜ……」


 血を吐きながら恨めしそうな目でポルコに嘆くドロイ。


「貴様などに教えてやらん。だが、最後に放った魔法はお前の息子を葬ったものと同じだ」


 聞こえたのか、いないのか。涙と血にまみれた顔は、もう生きてはいなかった。


「すごい!すごい!」


 シャンテが喜び飛び上がる。それを合図に、安堵感が訪れる。だが、余韻に浸ることなくポルコが口を開く。


「手下共が来る前に、王の娘を助けに行く。まだ城内にいるはずだ」


 ドロイの指輪を奪い、四人は奥へと走って行った。


 城内に敵の気配はなかった。


「どうやら外にいた数名だけだったようだな」


 ポルコが言うと、フィオがせきを切ったように。


「凄かった〜!ポルコもシーナも!あ〜良かった〜みんな生きてる!二人のおかげだよ!」


 ポルコは少し照れつつ。


「シーナの手柄だな」


 シーナは謙遜しながら。


「それは……ジェンダの時の龍脈を覚えていたから」


「龍脈を?」


 フィオが早く教えてとばかりに、問いかける。


「うん。足元に集中して伸びてくる龍脈、視えなくてもそこさえ刺せばなんとかって」


「足元って言うより、足だったよね」


 フィオが言う。


「いや〜思わず。でもより確実だったみたい」


 と笑うシーナにシャンテが。


「ポルコが倒れ、シーナが寄っていくとこも作戦だったのか?」


「もちろん!あのイヤらしいジィさんのことだから、近寄って来るはずってポルコが」


 誇らしげに答えるシーナにポルコが続く。


「だが、あの氷魔法はシーナの手柄だ。あれがなければわからなかっただろう。良い機転だった」


 とどこか嬉しげなポルコ。だがシーナは厳しい表情で。


「でも……」


 ポルコは何が言いたいのかわかっていた。


「ああ、次はないだろうな。アイツが相手だったから上手くいったが、他の者はそう簡単に隙を見せてくれんだろう。刺せたところで気づかれれば抜かれるだけだ。効果はあるが、実用は厳しいな」


 険しい表情の二人をフィオは。


「大丈夫!次は私と赫龍が!」


 胸をポンと叩いてみせる。そんなフィオの頭を撫でながら、ポルコが。


「ああ頼りにしてる」


 その言葉が嬉しそうなフィオだった。


 四人は地下へと降りていく。薄暗く、不気味な地下には牢が並んでいる。その一つ一つを、覗き込み進む。


「いた!」


 シャンテの声に姫は怯えるが、ポルコが近づき。事情を説明すると涙を流し、声にならない声で感謝を述べた。


 一国の姫とは思えぬボロボロの服と、痩せこけた体。それだけで、過酷さが伝わった。


 王のこと、姫のこと何よりこの国のこともあり、四人はしばらく城にいることに決めた。だが、何から手をつければいいかわからずに、雪の国に手紙を出した。数日後には返事が来るはずだ。


「フィオ」


 窓辺にたたずむフィオの横顔にポルコが話しかけた。


「もういないのかい?」


 フィオは、寂しそうな笑みを浮かべ。


「うん。もう聞こえない」


 ポルコはフィオの背をさすり。


「立派な母親だった」


 夕焼けに伸びる影が、小さく頷いた。



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