第13話 許されぬ者

「王子さがって……」


 ルーザニアに到着した一行は王都を目指す道中、何度目かの魔物との遭遇である。だが、ポルコとシーナでいとも簡単に討伐する。


「慣れたみたいだな。戦う度に洗練さを増している」


 赫龍の加護を受け「視える者」ではなくなったシーナは、ルーザニアに入り一から魔法を取得していた。

 ポルコの言葉に素直に喜ぶシーナ。


「うん!感覚はあまり変わらないから、使える魔力の量さえ掴めばね」


「コホン……」


 フィオの後ろに隠れているシャンテがなにか言いたそうにしている。


「ポルコもシーナも、僕のことは名前で呼んでいいんだぞ」


 なんとも言えない空気が流れる。


 ハッキリと言ってしまえば「邪魔」である。という思いが戦闘をする二人にはあった。あの時引き返そうと思ったが、どうしてもとシャンテが駄々をこね、尚且つ国王の後ろ盾もあり無下にはできず。ルーザニアの王都までということで落ち着いたのだが。


「いえ……仮にも私は雪の国の出身です。祖国の王を名前で呼ぶなど……」


 とポルコはかしこまるが。


「私は、ずっと名前で呼んでますけど!!」


 シーナのイジワルな言い方で、自分が歓迎されてないことを感じるシャンテ、だが負けじと。


「フィオ〜、シーナが……」


 フィオに泣きつくシャンテ。


「はい。はい」


 そう言って、シャンテを受け止めるフィオの陰からシーナに向かって舌を出す。


「この!!」


 追いかけるシーナ。


 やれやれ……困るポルコに、笑って見ているフィオ。


 日常である。


 夕日が沈むのを眺めながら、焚き火を囲む。


「ポルコ、王都に行ってどうするつもりなんだ?」


 突然のシャンテの問いかけに、ポルコは少し嫌な予感がした。

 帰らないと言い出すのでは?と。だが、違った。


「龍王の国に狙われているお前達を他の国が歓迎してくれるとは思わないぞ」


 シャンテの言うことは最もである。ポルコは答える。


「そうですね、行けばそのまま捕えられる危険性もあります」


「なのにどうして?」


「ここがルーザニアだからです」


 ポルコは続ける。


「第二大陸のギーザランドとなるとその危険性は大ですが、ルーザニアにその心配はありません」


「どうしてだ?」


 と聞くシャンテに、少し迷ってポルコが答える。


「ルーザニアの王はフィオの事を知っています……色々と力になってくれるはずです」


「そうなのか!すごいなフィオ」


 とシャンテに言われても、どう答えればいいかわからないフィオ。ポルコが話し出す。


「フィオが……赫眼の子が産まれたことを私達に伝えてくれたのは、ルーザニアの王です。王に会うまで黙ってるつもりでしたが……」


 その場にいる者、もちろんフィオにとっても初めて聞く話だった。


「それって……」


 シーナが言うと、ポルコは頷き。


「ルーザニアの王、いやこの大陸は元々、赫龍を守護していた。だがそれも何千年も前の話……今そのことを知るのは王族と一部の者のみ」


「だからフィオはこの大陸で産まれたの!」


 シーナ食いつく。


「いや、今は完全に蒼龍の加護の地。赫龍の痕跡は何ひとつ残っていない……たまたまとしか言いようがないな。もちろん全く関係がないとも言えんが」


「そっかぁ、でもあれだね!なんか希望がもてたね!フィオ」


 シーナに言われるが浮かない顔のフィオ。


「うん……そうだね」


 だとしたら、ルーラ村はどうして消えたのだろう……。フィオの心に引っかかっていた。


「そうか。ならば心配ないな」


 シャンテは続けて、今日はもう休むと言い切る前に眠りに落ちた。


 フィオ……フィオ……


 誰?


「フィオ起きて」


 シーナの声で目を覚ますフィオ。


 さっきのは夢?シーナ?夢の中で誰かに呼ばれた気がしたが、誰なのかフィオにはわからなかった。


 それから数日がたち、四人の目の前に王都が広がっていた。


「着いた〜。実は私、来るの初めてなんだ〜」


 嬉しそうなシーナ。


「ああ、やっと着いたな」


 安堵の表情のポルコ。二人を後目にやはりフィオは浮かない顔のまま。


「このままお城に向かうの?行けば休ませてくれるんじゃない?野宿ばっかりでヘトヘト。お風呂にも入りたいな」


 上機嫌のシーナ。


「そうだな」


 とポルコ。

 もう一人不満げな顔のシャンテ。


「結局、最後まで名前で呼んでくれなかったのだな」


 どうやら大人しく帰ってくれるつもりらしい。シャンテ自身も幼いながらに、足でまといであることを痛感していたのだろう。


「では!行こーう!」


 シーナを先頭に進み出す。


 王都、シモンセキとは違い煌びやかな街であった。オシャレなお店に、いい匂いのするレストラン。行き交う人も上品に着飾り、田舎者のシーナは浮かれる心と、羞恥心が同時に芽生えていた。


「どうしたフィオ?お腹でもすいたか?」


 元気のないフィオが気になるポルコ。いつもだったら真っ先に食い物に目が行くフィオなのに。


「ううん。そんなことないよ!すごい賑やかな街だね〜」


 作り笑いで誤魔化すフィオだが、ポルコの疑念は晴れなかった。


 商店街を抜けると、城に続く橋が架かっている。向こうの方に城門があり、門兵が二人立っている。橋を渡り門の前にやってきた一同、シーナは変わらず上機嫌だった。


「案内します、こちらへ」


 門兵の一人がそう言うと、前を歩き出す。それについて行く一同。


 ……フィオ……


 また!……フィオに語りかける声、辺りを見渡すが、誰もいない。

 気になりながらも、皆に歩調を合わせる。


 門兵が足を止める。扉が開き中から人が……

 背の低い老人。身なりはいいが薄気味悪い笑みを浮かべる。


「お待ちしておりましたぞ。私は、ドロイと申します。どうぞこちらへ」


 促されるままに歩を進める。


 フィオ!……。


 今までよりもハッキリと聞こえる。

 歩みを止めるフィオ。


 行っちゃダメ!フィオ!


 声の主が誰かわかった。会ったことない。いや、覚えてはいない……だけど。


 ……ママ!


「ポルコ、シーナ!戻って!」


 突然フィオが声を上げる。フィオはシャンテの手を掴み扉の方へ、ほんの一瞬だけ躊躇したポルコとシーナだが、直ぐに察知し、フィオを追う。


「無駄だ!」


 ドロイが叫ぶ。扉は勢いよく閉まり、フィオ達の行く手を阻む。


「どういうこと。フィオ!」


 さっきまで浮かれていたシーナの表情に焦りが見える。


「わからない。けど、ママが教えてくれた」


 固く閉ざされた扉を背にフィオが答える。


「ママって……」


 呆気に取られるシーナだが、ポルコにはなんとなく理解出来た。


「感謝する……」


 ポルコは呟き、みなを背で隠す。


 ドロイが近づきながら語りかける。


「惜しいの〜、黙ってついて来ておれば楽に死ねたもんを……」


「貴様!これは一体どういうことだ!王はどうした!?」


 ドロイは不敵に笑う。


「お前がそれを聞くかっ!ヒヒヒ」


 ……ポルコの脳裏に嫌な想像が浮かぶ。口に出すことを躊躇うポルコ。表情からそれを察知したドロイは、憎たらしい口調で語り出す。


「十五年前、この国の王は罪をおかした」


 そう言って、いやらしい目付きでフィオを見つめるドロイ。


 早くなるフィオの鼓動。


 ドロイは続ける。


「この地に赫眼の娘が産まれた時、龍王様はルーザニアの王に命じたのだ!ソイツを殺せと……」


 フィオを睨むドロイ。


「しかし、愚かな王は、それを実行することはなかった。痺れをきらした龍王様は、刺客をおくった。だが!愚かな王は、命令に背いたばかりか……こっから先は、知っておろうが!銀髪よ!」


 ポルコを睨みつけるドロイの目には、切れそうなほどの血管が浮かび上がる。


「そんなことはいい!王はどうした!」


 怒りが声に乗る、ポルコはドロイに問いただす。


「バカが……わかっておろうが」


 ドロイは続ける。


「お前がそのガキを救ったあの日、王はこの世を去った。私の手でな!」


「そんなバカな!十五年前だぞ……そんな話……」


 ポルコを遮り、ドロイが。


「王など飾りじゃ!この世界で王はただ一人!龍王様だけが王である!その他の王など飾りにすぎん。そうじゃろ?蒼龍の加護さえあれば人は生きていける」


 その通りである。魔法と少しのお金、それがあればこの世界では生きていける。そのため、税という制度もなく、各大陸の王は龍王との接点のためだけに存在する。それが、この世界の人々の認識なのだ。蒼龍の加護さえあれば、王など誰でもいいのである。


「そんなことはない!」


 突然シャンテが叫んだ。


「ほー、誰かと思えば雪の国の」


 見下すドロイにシャンテは続ける。


「王とは、国のために在る!国とは人だ!国民のために王はいるのだ!」


 力強い言葉である。が、ドロイは意にかえさず。


「ふん。知ったような事をほざきよって」


 ポルコが割って入る。


「王族全て……殺したのか……」


 怒りで震えるポルコ。


「い〜や、娘がいたな……」


 いやらしい目付きで答えるドロイ。


「あれは生かしてある。成長すればいい贄となりそうだからな」


 にえ……。


「贄とはなんのことだ!」


 ポルコの怒りは治まらない。


「貴様らが知る必要はない!」


 一蹴するドロイ。


 ドロイは手を顔の前で広げる。指にはあの指輪が光っている。

 身構えるポルコ、シーナ、そしてフィオ。


 拳を握りながらドロイは言う。


「ジェンダを討ったぐらいでいい気になるな!あれはドラゴンがいなければ何も出来ん、出来損ないじゃ!」

「貴様らはワシがこの手であの世へおくってやるわ!銀髪よ!」


 ポルコを睨むドロイの目が憎しみに燃える。


「貴様があの日、手にかけた者は……私の息子だ!お前だけには地獄の苦しみをくれてやる……」


 十五年前、フィオの命を狙いポルコに討たれたあの男。フィオの両親を殺した男……。


「ママ……パパ……」


 下を向きフィオが呟く。そして……。


「ルーラ村を消したのは誰?」


 ニヤケるドロイは答える。


「気づいたか、いや見たのか?健気な娘だね〜。私だよ!穢れた地を浄化したのさ!」


 握った拳からフィオの赤い血が、怒りで震えるフィオ。


「許さない……」


 フィオを包む怒りのオーラ。どす黒く飲まれてしまいそうな負の感情。


 ポルコがフィオを抱きしめる。


「怒りに飲まれちゃダメだ……フィオの力は守るための力」


 ポルコは自分にも言い聞かせるように言葉にした。


 怒りに飲まれるな……。


 フィオを纏っていた負のオーラが少しづつ小さくなる。


「ありがとう……ポルコ」


 頷くポルコ。


「シーナ!フィオを頼んだ。アイツは私がやる!」


 シーナにフィオを託し、ドロイを睨み返すポルコはドロイに告げる。


「喜べ、ご老体よ。息子を討った男にお前も討たれるんだからな!」


「畜生が!」


 ドロイが魔法を放つ……。


 ポルコとドロイ……因縁の闘いが始まる。



 第十三話 終






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