第12話 休息そして…

 パラディンの住人達はフィオの帰りを喜び、もてなした。


「ほら!フィオの好きな魚料理だ!」


 パラディン一の漁師、ダンは奥さんを早朝から叩き起すと、自分で釣ってきた魚を調理させた。


「そんなもんより肉だろう!」


 パラディン一の狩人、ルーファスも同様である。互いに睨み合う二人。


「どっちも大好き!ありがとう〜」


 ニコニコ笑うフィオの笑顔が解決してくれる。


 女の子達も、次々とフィオの元へ。自分がどれだけ会いたかったとか、寂しかったを競い合う。


 フィオの周りはお祭り状態。


 呆れるポルコに、あっけにとられるシーナ。笑うエルリック、輪に入れず落ち込むシャンテ、といったところだ。


 そんな喧騒のさなか、ソフィがポルコの手を掴み、どこかへと連れていく。人気のない場所まで来た二人、ソフィはポルコを見上げる。


 あれ?怒ってる……


 ソフィの表情からそれを感じとるポルコ、思わず目をそらす。


「エルザって誰?」


 思いもよらぬ、ソフィの言葉に一瞬訳がわからなかったポルコは間抜けな顔をした。


「はい?」


「だから!エルザって誰?」


 あ……シーナ?フィオ?


 どっちが言った!まったく。と呆れるポルコはソフィに向き合う。


「とっても君に似ていたんだ、本当にソックリで驚いたよ」


「それで!」


 言葉足らずが気に食わないソフィは、まだまだ迫る。


「そ、それだけだ……」


 少しの沈黙が流れる。


 ポルコがフィオをこの大陸に連れてきてから。ポルコは父親そして、ソフィが母親のような役割だった。

 それはただの役割であり、二人の間に何かがあった訳ではない。それぞれが自分の使命を全うしていたにすぎない。だが、特別な感情をお互いが抱いていたのは事実である。フィオを連れてくる前から。


 ソフィはただきっかけが欲しかった。フィオからエルザの事を聞いても、それは怒る理由にはならない事をソフィ自身がわかっていた。

 フィオから聞いたと言っても、揶揄からかうフィオを見て、ソフィが問いただしただけなのだが。


 またすぐ此処からいなくなるポルコに、言葉でも、行動でも、安心が欲しかったのだ。


「……一日も、君を思い出さない日はなかった」


 突然のポルコの言葉に、ソフィの顔が赤く染る。だが、それ以上にポルコの顔の方が赤かった。


 ポルコの本心だった。パラディンに来てからフィオと共に旅立つまで、ずっと一緒にいたソフィ。時折、考えては、ホームシックに陥ってた事をフィオに悟られないようにしていた。


 紅潮したポルコの顔がやけに愛おしく思えるソフィ。


「そんな顔初めて」


 ソフィの言葉に慌てて照れるポルコ。

 イタズラにソフィが攻める。


「それで!」


「……」


「聞こえない!」


「会いたかった……」


 蚊の鳴くような声で振り絞った言葉がやっと届いた。


「私もよ……」


 静かに見つめ合う二人。


 ゆっくりと唇を重ねた。


 初めて抱きしめたソフィの身体は、想像以上に華奢で、少し驚いたが。

 絶対に守ると強く思ったポルコだった。


 輪に入れなかったもう一人。シーナはアルクの事を考えていた。


「俺は残る……」


 それを言った時のアルクがシーナの知ってるアルクではなかった。


 あ〜一瞬思っちゃったな〜カッコイイって。不覚……


 弟のように思っていた。そんなアルクが敵に討たれ、我を忘れるほど怒りに満ちた事。それからのアルクの成長。


 男の子ってあっという間に変わるのね……


 それがシーナを寂しい気持ちにさせていた。


 どうしてるかな……会いたいな……私がいなくて平気かな……


 シーナの頭の中を色んな思いが巡る。それは、シーナに何者かが接近している事を気づかせないほど、シーナを支配していた。


「何してるの!?」


 フィオの登場に驚くシーナ。

 膝を立て、腕でくるみ、座って黄昏ていた時に、突然後ろから抱きつかれて。心臓が声をあげるように驚いたシーナ。


「ビックリした〜。いいのみんなは?」


「う〜ん、勝手に盛り上がってる!いつもの事だよ」


「いいとこだね……」


 海を見つめ、少し寂しそうな笑みを浮かべる、シーナ。


「ふっふっふーん……アルクの事考えてたでしょ?」


「ちっ、違うよ!本当にいいとこだな〜って」


 屈託のない笑顔を向けるフィオに、シーナはたまらず、思いを吐露する。


「これから、どうなるんだろう?」


「怖い?」


 フィオが優しく聞き返す。


「怖いというより、不安かな」


 自分のためにシーナが力を失った事をフィオは気にしていた。


「ごめんね……」


 それに気づいたシーナは慌てて。


「違う違う!そうじゃなくてさ……あまりにもあっという間に色んなことが変わったから……今此処にいること、あの時の自分じゃ全く想像出来なかったな」


 シーナもアルクも、産まれた街で育ち、人生に終わりが来るまで何事もなくこのまま変わらない日々を送っていくのだと思っていた。


「そっか……でも、シーナに出会えて良かった」


 フィオは変わらず笑顔を向ける。


「アルクにも!……パラディンに住むみんなも大司様もポルコも、みんな大切な人達」


 フィオは続ける


「もちろんシーナも!あとシャンテにリンダさんに、エルリックさん……」

「そして、きっとこれからも出会うんだと思う」


 シーナがフィオを見る。


「これからも?」


「うん!」


「私の大切な人は、私が守る。シーナ達がいれば絶対に出来るよ」


「強いねフィオは……」


 フィオが答える。


「強くなんてないよ。でも、そうありたいって思ってる」


 その言葉にシーナは気付かされる。


「私もそうありたい!きっとアルクだって今頑張ってる」


「うん!」


 互いに手を取り合い、みんなのとこへ向かうフィオとシーナ。


 シーナがつぶやく


「ありがとう……フィオ」


「なんか言った?」


「なんでもな〜い」



 ー次の日ー

 赫龍の間。


 みなが集まる中、大司が口火をきる。


「直接向かうのかい?」


 ポルコが答える。


「いえ。大陸を順に渡って行こうと思っています。シーナやアルクの例もありますから。フィオの誕生により特別な力に目覚めた子が他にいないと限りませんので」


 エルリックが顎に手をあて。


「うむ。ワシもそう思う。おそらく世界の異変はあちらこちらに起きてるじゃろうからの」


「では、またルーザニアだね」


 大司が言う。


「はい。次は直接王都を目指すつもりです」


 ポルコが答えると大司はフィオに新しい眼帯を渡す。


「特別な魔法をかけておいたよ。簡単にはみつからんはずだよ」


「ありがとう大司様」


 そう言って大司に抱きつくフィオを大司は優しく抱きしめ。


「気をつけるんだよ……待ってるからね」


「うん」


「では行こう」


 ポルコが言うと、ソフィは悲しそうな表情をうかべる。気づいたポルコはソフィのそばに行き。


「必ず戻る」


 力強く約束する。


「はい」


 答えるソフィ。


 二人をフィオは嬉しそうに見つめている。


 海岸に出る。最初の時のようにみんなが見送ってくれる。


 大きく手を振るフィオ。


 見送る人々の中でエルリックが気づく。


「ありゃ?王子はどこじゃ」


 フィオ達を乗せた船、沖に出てもうパラディンは見えなくなった。すると、積荷が動く。


 ゴソゴソ……


 フィオがめくると、シャンテだった。


「シャンテ!」


 三人は同時に声を上げる。


「置いていくなんてないぞ!僕も一緒だ!」


 困ったポルコに呆れるシーナ。


 予定外の同行者を連れ、旅は始まりを告げた。



 第十二話 終

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