第9話 最悪な結末

ポルコとジェンダの激しい攻防が繰り返される。上空から放たれる魔弾を躱しつつ地上から魔弾を放つ。

放たれた魔弾は時に、刃に変わりポルコの身を襲うが、それはジェンダも同じ事。同じような技を繰り出す二人の戦いは拮抗していた。


シーナの鼓動が早くなる、不安そうにポルコを見つめる。

おかしい……まえ戦った時はドラゴンも相手にしてたからの苦戦だったけど、ポルコが押されてる気がする。


「ホッホッホ、心配かなシーナよ」


エルリックに問われ、小さく頷くシーナ。


「大丈夫じゃ、アレはワシの一番弟子。ワシにはまだ余裕に見えるがの」


その言葉にシーナではなく、アルクが反応する。


「ホントかよ!?信じていいのか!?あんなにキツそうな顔してるのに」


慌てるアルク。どうやらポルコの事を一番心配していたのはアルクのようだった。


「ほれ……」


エルリックが目線で促す。

ポルコの魔弾が一発、二発、三発と直撃する。


「オッシャ!!」


アルクのガッツポーズ。


「では、ワシもそろそろ行くかの」


エルリックはそう言うと、準備体操というのか。軽く屈伸をする。


「マスター……」


なにか言いたげなシーナに変わってアルクが代弁する。


「ドラゴンだぜ!大丈夫かよ、じいさん」


「ドラゴンか……ホッホッホ……アレはまがい物じゃ」


まがい物?その言葉がシーナとアルクを惑わす。


「お前さんらはどうする?そこで傍観するのも退屈じゃろ。ちと手伝わんか?」


一瞬ドキリとするシーナだったが、直ぐに覚悟を決め


「行きます!」


戦う者の顔に変わる。

そんなシーナを見てアルクも心を決める。


「やるぜ!」


「では、あまり待たせるのも悪かろうて……バケモンが」


消える……確かに消えた。


エルリックは忽然と二人の前から姿を消した。呆気に取られる二人だったが。


「グルルガオ……」


言葉にならない声、いや悲鳴か。ドラゴンから聞こえてくる。その方に視線を向けると、以前の戦闘でシーナが落とした腕がまた切り落とされている。

目を見開く二人。切り落としたのはエルリックだった。

消えたと思ったエルリックは瞬時に移動し。そして、すでに攻撃していた。


「行こう!」とアルク。


二人は目を合わせ、同時に駆け出す。


「ホッホッホ、遅かったの〜では続きじゃ」


それを合図にシーナが魔法でドラゴンの足を凍らせ動きを止める。


「シーナ!」


アルクの呼び掛けに答えるように、シーナが魔法でアルクを宙に浮かす。そのまま走り、渾身の一撃をドラゴンにお見舞いする。

見るからに硬いドラゴンの皮膚を裂き鮮血が舞う。


「ホッホッホ、いいコンビじゃ」


咆哮しようとするドラゴンの口内にエルリックが巨大な氷の玉を詰める。


「ほれ、もう一発」


そう言うと、ドラゴンの頭上にそれよりも巨大な氷の玉が。勢いつけられた氷の玉はドラゴンの頭に直撃する。


「グヌ……グォォォ」


悲鳴をあげるドラゴン。


それは、もちろんジェンダの耳にも届く。


「チッ、使えないトカゲが……本当に厄介なジジイだよ」


肩、額、流れる血を魔法で止血し、地上に降りるジェンダ。身構えるポルコ。


「命が惜しいなら去れ!」


ポルコの言葉にジェンダは。


「わかっていたさ、あんた達の強さも、あのジジイの存在も」


不敵に笑うジェンダ。顔の前に広げた手を握り締め力を込める、指輪の蒼い宝石が輝きだす。


「ハァーーーーァ……!!」


ジェンダの魔力が増大する。オーラの量だけで、押されるポルコ。ニヤリと笑うジェンダが、腕を振り下ろす。


「グッ!」「グワーッ!」


ガードするポルコだったが、簡単に飛ばされる。


ドラゴンにも同じことが起きていた。額に埋め込まれた宝石が輝くと雄叫びをあげた。


「なんじゃこりゃ!いかん!」


慌てるエルリック


「下がるんじゃ!シーナ、アルク!」


ドラゴンが咆哮する。大きく開いた口から飛び出した光は上空に上がり、無数の流星になって地上を襲う。一面激しい光に包まれる、けたたましい衝撃音が国中に轟く。


リンダに連れられ、王宮の地下に避難していたフィオの耳にもそれは届いた。


胸騒ぎがフィオを襲う。不安そうな表情をシャンテが見つめる。そして……ギュウッとフィオの手を握る。


「一体何がおこってるんだい!」


リンダはそう言うと、駆け出そうとしていた。


「待って!リンダさん!私も行く」


フィオがリンダを呼び止める。


「ダメだ!危なすぎる!それにアイツらはあんたを守るために戦ってるんだ!あんたが出ていったら元も子もないよ」


「お願い!行かなくちゃ!私が行かなくちゃ!」


懇願するフィオに頭を抱えるリンダ。フィオの真っ直ぐな瞳はリンダに何かを予感させる。


「わかったよ……だけど、戦闘には参加させない!いいね!」


コクンと力強く頷くフィオ。その手を握ったままのシャンテが


「ダメ。行かないでフィオ!」


そう言ってフィオに抱きつく、優しくその手をはなし。


「大丈夫。絶対に戻ってくるから、約束だよ」


シャンテを抱きしめながらフィオが告げる。


「約束だよ!友達との約束は絶対だからね!」


「うん」


笑顔で答える。そして、そのままリンダと共に掛けて行った。


氷の欠片が無数に散らばる。その中からポルコの姿が現れる。


「さすがに今のじゃ死んでくれないか」


ジェンダが見下す。


「貴様、何をした!」


指輪を見せるジェンダ。


「蒼龍の力を今の私は自由に使えるのさ」


「何!?」


ポルコに向かって衝撃波を放つ。


「グワーッ!」


ポルコは倒れる。




「大丈夫かの?」


エルリックに守られたシーナとアルク。


「はい。助かりました」


シーナが答える。


「突然どうなってんだよ!」


戸惑うアルク。


「視えるか、シーナ」


エルリックにそう言われ、視る。ゾッとするシーナ。


「りゅ、龍脈を通って魔力があの女の元に……尋常じゃない量」


「うむ。厄介じゃ……ジェンダからドラゴンへとも繋がっているの」


「こうなってはドラゴンなどどうでもいいわい!元凶を消せばドラゴンも息絶えるであろう」


「でも……」


不安そうなシーナ。


「そうじゃな皆でやるとしてもアレは強大すぎる」


「どうすりゃいいんだよ!」


慌てるアルク。


エルリックは少し考え


「シーナ……ワシと龍脈の流れをかえるぞ」


「流れを?」


「そうじゃ、ジェンダに送られる流れをワシとシーナ、二人に送るんじゃ」


「でも、アレは強大すぎて、受け止めれない!」


シーナがエルリックの案を否定する。


「うむ。ジェンダが耐えれてるのもあの指輪のせいじゃろう。本人の身体はボロボロじゃがな」


「どうすれば……」


「ワシがバランスをとる。指輪の役目をやろう」


エルリックの出す案をさっきより強く否定するシーナ。


「ダメです!そんな危険な真似」


「何も全部受けるとは言うとらん、半分も取ればあとは、ポルコとアルクがやってくれるわ!のう?」


アルクの方を見るエルリック。アルクは拳を握り締め。


「やってやる……絶対」


「それでも……」


とシーナはまだ納得出来ていない。


「バランスじゃよ。間違わなければ大丈夫じゃ。お主には充分それが出来る」


「バランス……」


「そうじゃ、天才魔道士が二人もおるんじゃ出来ないことなどないわ!」


「そうだぜシーナ!お前がやらなきゃ誰も助からない!」


アルクが珍しく厳しい言葉をかける。


「わかった、やる!絶対に誰も死なせたりしない」


「ホッホッホ、その意気じゃ」


エルリックは続ける。


「してアルクよ、一番大変なのはお前じゃ!」


エルリックの言葉に真剣な眼差しのアルク。


「わかってる……足止めしとけばいいんだろう」


「出来るかの?」


「あたりまえだ!」


アルクの手に紋章が浮かぶ。


「では、始めるぞい」


少し離れた場所で構えるシーナ。エルリックの手を握り、意識を龍脈へ落とす。

視える、この流れ……

ジェンダに向かって流れていく強大な魔力。緻密なコントロールで少しづつ、エルリックの方に流していく。


「その調子じゃ」


額に汗を浮かべながら、集中力を高める。


「ポルコ!」


アルクは、ポルコの元へと。


「説明はあとだ!一緒にアイツを食い止めよう!」


アルクの真剣な眼差し、ポルコはアルクを一人の戦士として認めた。


「ああ」


「雑魚が集まったって同じことさ」


ジェンダが攻撃を放つ、飛ばされるアルクとポルコ。


すぐさま立ち上がり、アルクが剣を振る。魔法でガードするジェンダ、かまわず何度も繰り返すアルク。

ポルコがサポートする、二人を相手取るジェンダ。

ドラゴンは咆哮を放ったあと動けなくなっていた。


しばらくして異変に気づくジェンダ。


「どうなってんだい力が弱まってるよ」


「へへっ今頃気づいたか!」


誇らしげなアルク。


ジェンダは龍脈を探る。


「やってくれたね!」


「そういう事か……」


理解したポルコ。


「無駄だよ!」


余裕の表情のジェンダ


「いくらだって増やせるのさ!アイツらはそれに耐えられるだろうかね?」


不敵な笑みを浮かべる。


「ハーーーーァ!」


まだまだ増大する魔力。


厳しい表情のシーナ。


「これ以上は……」


「かまわんやるのじゃ!」


苦しみに耐えるエルリック。


「イカン!」


エルリックを見兼ねたシーナは自らに魔力を送る。慌てて阻止するエルリック。


「ばかもの!飲まれるぞ!」


結局、作戦は失敗した。送られる魔力の量が予想を遥かに超えていたからだ。


「万事休す……かの」


だが正直助かったわい、ワシが飲まれるところじゃった。エルリックは内心ほっとしていた。


「アッハハ!どうやら無理だったようだね」


ジェンダが嘲笑う。


「貴様もそろそろ限界のようだが」


ポルコの放った一言に


「黙れ!」


ジェンダが魔法を放つ。耐えれず飛ばされるポルコ、すでに満身創痍だった。


その姿を見てアルクがジェンダに向かって行く!簡単にいなされるアルク、かまわず何度も立ち上がる。


「絶対にあきらめない!」


決意を強く叫ぶ。大きく振りかざした剣を振る、切っ先から炎の刃が伸びるジェンダの顔に傷をつける。


「驚いたね!魔剣かい。だが限界だね」


ジェンダの手がアルクの命を奪おうと狙っている。笑みを浮かべ命を絶とうと動き出す。


その時、剣がその手を吹き飛ばす。


悲鳴をあげるジェンダ


「誰だ!」


「上出来だよ」


リンダだった。傷だらけのアルクを抱え別の場所に寝かせる。


「あとは私がやるよ」


ジェンダの腕はすでに回復していた。その速さに、身構えるリンダ。


「リンダ、無理だ……逃げろ」


ポルコが言う。ボロボロのポルコの姿が強敵だと物語る。


「見てみな」


リンダが指さす方に国中の魔道士が集まっている。


「この人数でかかれば、さすがのあんたも立ってられないだろう」


ざっと百人はいるだろうか。


「いいのかいあんたら!龍王の国に歯向かうってことだよ!」


どよめく魔道士たち。


「かまわん!」


ドスの効いた声が響く。


「こ、国王……」


ポルコがつぶやく。


「国をめちゃくちゃにしおって!やってしまえ!」


国王の掛け声で、魔道士達が一斉に魔法を放つ。受けるのが精一杯で動けないジェンダ。シーナとエルリックも加わる。


リンダが魔剣を振るう。


ジェンダの身体から、血が舞い、鎧が砕ける。


「クソクソクソクソクソ……」

「クソがーーーーー」


雄叫びをあげる。指輪の宝石が光った瞬間、爆発し周囲を吹き飛ばす。


気づくと、ジェンダはもう人の形すら保っていなかった。ぼろぼろと崩れ落ちるジェンダだった物。それを確認した皆が勝鬨をあげる。そこに……


ドラゴンの咆哮がこだました。額の宝石が割れてなくなっていた。


「イカン!制御が切れたんじゃ」


そう言うと、エルリックは魔法を放つ。が、出ない。


「そうか!さっきの爆発で大量の魔力をいっぺんに使い、魔力の供給が一時的に止まっておる」

「皆、逃げるのじゃ!」


我、先にと逃げ出す魔道士たち、動けないポルコとアルク。それを守るように構えるリンダ。

何もできず、動けないシーナ。


ドラゴンがアルクに目をつける。咆哮が襲う、庇うリンダ。庇うが反撃は出来ない、何度目かの咆哮でリンダが倒れる。ギロリと睨みつけるドラゴン、その先にポルコ。覚悟を決めるポルコ。


「ポルコーー!」


響きわたるフィオの声。


「フィオ!寄せ、逃げろ」


ドラゴンの前に立つフィオ。右目が痛む……。乱暴に眼帯を外し、ズキズキと痛む右目でドラゴンを睨みつける。


赫い瞳に触発されたのか暴れ出すドラゴン。


「来て……赫龍せきりゅう


フィオの右目が輝きだす。赫い光がフィオを包む。真っ直ぐに伸ばした手から魔法を放つ。


ドラゴンは一瞬で、跡形もなく消え去った。


誰もが言葉をなくす。


フィオはまるで魂が抜けたようにゆっくりと倒れていった。


「フィオーーーーー!」


ポルコの叫びが虚しく響いた。



第九話 終




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