第3話 港町シモンセキ

パラディンを出発し十日ほど経ったある日。


「ポルコなんか変」


フィオが不安そうにポルコの方を見ている。

漕ぎながらポルコ自信も身の異変に気づく、おもむろにポケットから何かを取り出しフィオに渡す。


「これを付けて」


フィオが受け取ったのは、眼帯だった。

理由を察したフィオはなれない手つきで赤く輝く右目を隠した。


「そっか、こっからは蒼龍の場所なんだね」


そう言うと、手を伸ばし何かを確認している。


「ホントだ、魔法使えないや……」


眼帯を渡すのが少し遅かったかと、ポルコは険しい表情を浮かべた。


「フィオ、こっからは気をつけて。赫龍の力を感じ取られるとフィオの存在がバレてしまう!それは絶対に取らないように」


眼帯を押し付けながらフィオは小さく頷く。



それから五回目の朝を迎えた頃、大陸が見えた。


第三の大陸ルーザニア……フィオの産まれたルーラ村のある大陸だ。


「見てーー!ポルコ!やっとだよ!」


はしゃぐフィオをポルコは穏やかに見つめている。

時に魔法を使い一気に距離を稼いで、疲れると人力で漕ぎたまにフィオも漕いで。それを繰り返し約二週間の時間をかけて辿り着いた。


はしゃぐフィオの目に最初に飛び込んできたのは、飛行船だった。


「うわ!空飛んでる!ポルコあれ何?」


「飛行船だよ」


「飛行船?何かわかんないけど凄いね、飛んでるよ!あれだとパラディンまであっという間かな?」


「あっという間までは行かないだろうけど、私達が費やした時間の3分の1くらいだろうね」


「えーー!それでも早いよ!すごいな〜飛行船!乗ってみたいな〜」


「そうだね……だけどフィオ」


ポルコは少し畏まったように続ける。


「アレを動かしてるのは数人の魔法が使える人間達だ。おそらく交代しながら絶え間なく魔力を注いでいる。蒼龍の力を得て魔法が生まれ確かに人々の暮らしは便利になった。だけど、文明はそこで成長を止めてしまったんだ」


難しい顔をするフィオの脳裏に大司の言葉が浮かんでくる。


(世界を見て……)


「そっか……」


フィオは一言だけそう呟き、眼帯をさすった。


「よし!行こうポルコ!もう目の前だ!」




人目につかなそうな場所にボートを繋ぎ、ポルコとフィオは第三の大陸ルーザニアに降り立った。


「ここはなんて街?」


「シモンセキ、漁業が盛んな港町さ」


道狭しと並ぶ屋台に行き交う人々、大声で呼び込む店主に、値切ろうと粘る老婦人。

街は活気に溢れていた。


フィオの胸は期待にいっぱいで踊っていた。


第三話 終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る