第2話 旅立ち
「大司様…」
赫龍の間、像が赤い光を放つ。
「来たかい…フィオ」
そう言って大司は振り返る。
無邪気に見つめる赤い瞳が大司の視界に入ってくる、ポルコに抱かれやってきた赤ん坊だった頃の姿が思い返される。
「早いもんだね…今年で15になるのかい」
「はい。フィオは今年で15になります」
慈愛に満ちた言葉に、ゆっくりとフィオは答えた。
「ここでの暮らしはどうだい?」
口角を上げ、嬉しそうに
「はい。ポルコもソフィもみんな優しくて大好きです!」
ソフィとはこの大陸に住む守護者の一人である。
「ホホホ…それは何よりだね」
少しの沈黙が流れる…龍の像は依然光を放ち続ける。それはフィオの成長に伴って力を増しているようだった。
「…フィオや…お主は自分の宿命を知っているね」
「はい…この瞳は赫龍の証。世界がそれを必要とした時に産まれてくる者です」
「そうじゃ…数百いや数千年に一人産まれてくると言われている赫龍を司る者」
物心ついた時からフィオは何度となくこのことを教えこまれていた。
魔法の使い方、世界の成り立ち、そして、自分の存在する意味。
「とは言っても初めてなのじゃ…実際産まれてきたのがフィオが初めてじゃ…」
「…」
少し困るフィオ…
神妙な雰囲気だったものに違和感がうまれる
「なのでな…フィオ」
「…はい」
「世界を見てくるのじゃ」
「世界…?」
「そう世界じゃ!この大陸と言うには小さすぎるが、ここに住んでおる何百の者よりも世界は多くの人で溢れている」
「各大陸に国があり王がいて国民がいる。大陸の数、国の数、そして人の数だけ物語があるのじゃ」
「その目でそれを見て感じ、己の心に従うのじゃ」
一気に話す大司に圧倒されながらもフィオは口を開く、心は疑問ばかりだ。
「え…えっと、1人で?」
「いや…ポルコと共にじゃ」
胸をなでおろし、フィオは続ける
「どのくらい?」
「わからぬ」
「え…」
「だがこれだけは言える…全ては導かれるままに。フィオは強く聡明な子じゃ…必ずなにかがフィオを待っておる」
大司の言葉になにか熱いものが込み上げてくるフィオ。ギュッと胸の前で拳を握る。
また一段と光を強くする像、それを見た大使が強い口調で言葉を発する。
「だが、気をつけるのじゃ!」
フィオは背筋がピンと伸びる気がした。
「フィオは特別じゃ…この大陸ではお主以上に魔力が強い者はおらぬ!だが、蒼龍の加護する大陸に踏み込めば…フィオ、お主は魔力を使えんじゃろう」
唇を噛む、不安がフィオにおしよせる。理由はわかっている、赫龍の力そのもののフィオには蒼龍の力を使うことが出来ない、この大陸は赫龍が眠るとされる場所。
ここでしかフィオは魔力を使えない。
「世界の成り立ちを知っているね」
「はい。赫龍と蒼龍の戦い…敗れた赫龍はこの地に眠り、勝利した蒼龍も弱った所を人間に捕らえられ、その力を利用されている…」
「そうじゃ…その蒼龍を捕らえた者が、かつての龍王と呼ばれた者…龍王の国、始まりの者」
「蒼龍の力は大地の龍脈を通じ各大陸に巡っているが、龍脈はここまでは伸びていない。」
「龍脈の始まりである龍王の国により近い大陸ほどその力は強大なものじゃ、赫龍そのもののフィオがその地に踏み入れた時何が起こるかわからぬ…フィオ…お主の命を狙うものもおるじゃろう…」
最後の言葉が胸に突き刺さる…両親が殺されたことは聞かされて知っている。
グッと力を込め顔を上げるとフィオは力強く答えた。
「大丈夫です!!ポルコがいる!!」
フィオに気圧された大使は「ホッホッホ〜」と嬉しそうに笑いこうつけ加えた。
「あやつは強い…誰よりも」
フィオが去ったあと柱の影からポルコが問いかける。
「いいのですか?あの子が何を選んでも…」
「運命じゃよ…宿命を背負ったフィオが己の力で運命を手に入れる」
「お主もわかっておるじゃろポルコよ…世界はフィオをほっときはせん…頼んだぞよ」
「はっ!この身がどうなろうと…」
3日後
「ソフィ…クレア…ダンさんも、みんなありがとう!ちゃんと元気に帰ってくるから」
見送りに来たみんなに別れを告げる。
ポルコが漕ぐボートがゆっくりと慣れ親しんだ大陸を離れていく。
フィオはいつまでも手を振り続けた。
第二話 終
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