「はい、お疲れ様」

はぁ、はぁ。いつものカラオケ屋……!

すっかり遅刻だ。息を整えて受付を済ませる。ええと、部屋は……。


「お、本当に走ってきたんだ。感心感心」

「冬!なんで……」

「え、だって行くって言ったじゃん」

「いや、中に居ればいいのに……」

「信のために案内係になってあげたの。感謝してよね」

「ああ、ありがとう」

「うわ、素直な信だ」

「だって寒い中待っててくれたんだろ?ごめん」

「冗談だよ。みんな待ってるから行こ」

「うん」


さっきの電話越しの微妙な空気が残っているような気もするが、いつも通りの冬の顔を見て安心した。


「ん?どしたの?」

「なんでもない」

ジー。なんだ。俺の顔に何かついてるのか。そう言おうとしたが、背伸びした冬にガシッと頬を掴まれた。冷たい。身長差のせいで首が持っていかれる。


「つめたっ」

そのままぎゅっと挟まれ、呆気に取られていると

「あは、変な顔!何考えてたの?遅刻したこと気にしてるの?元気ないなら私がヘビメタでも歌ってあげようか!」

「……結構です。選曲ヘビメタて。歌えないだろ」

「ばれたか」

「こんなに冷えてるじゃん……」

そっと手を重ねると冬はぱっと手を離し、俺に背を向けて先を歩き出した。俺の手も冷たいから驚かせたのか?


「特に何でも無いけどそんな変な顔してたか?」

「……ううん。してなかった。ちょっと顔見たかっただけ」

「え」

後ろから見える冬の耳がほんのり桜色になっている気がして、声をかけようとした。

「冬「到着!」

「え」

「みんな、信来たよ!」


中に入るとみんな口々に遅いぞ~とか早く早く!とか言ってくれた。

俺から離れた冬は自分の仕事は終わったというかのように、そそくさと端の席に座りジュースを飲んでいた。そちらに近づき半ば無理やり詰めてもらい、隣を陣取った。


「え、何何」

「一応遅刻したんで真ん中は気まずい。端っこよこせ」

「……しょーがないなー」

そう言いつつ、ニヤけてるし満足そうじゃないか。それを指摘するのは野暮な気がするので、俺はリモコンをもらって操作する。


ラブソングでも入れてやろう。冬は笑うかもしれないが、それでいい。そんな気分なんだ。サビはお前の顔を見て歌ってやろう。


電話越しじゃ見られなかったけど、その余裕なニヤけ顔が赤くなるのが楽しみだよ。



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寝坊して約束に遅刻しそうなので幼馴染に電話する 藤間伊織 @idks

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