傷心 ブザー

 その夜、エイドとウェロウの二人は、奇妙な距離感があった。二人で食事をして、無言でテレビを見るが、お互いに言葉少なで、何があったかを隠している、が目線が時折あうと、好い事ではない事はお互いにわかった。最初に言葉を発したのはウェロウのほうだった。

「ねえ」

「え?」

「あなたの方でも何かあったの」

「……」

「そうなのね、私は“あるエージェント”に助けられて……これからも私を見守るって、小さなブザーをもらったの」

 そういって、ウェロウはしずく型に小さな丸いボタンのついたブザーをみせた。

「これを押すとすぐ近くのエージェントがかけつけるからって」

「そうか、よかった……」

 ふと、突然何かを察した用に、ウェロウはエイドのそばによりそった、そしてためらいながら、エイドをだきしめた。エイドはびっくりしながらも、膝を抱えて縮こまっていた。

「あなたはどうなの、あなたは誰かが守ってくれるの」

「……」

「お願い、どうか、困ったことがあったらすぐに私に連絡をして、一人で考えないで、これはあなが主人の記憶をもっているから言うんじゃないのよ」

「はい……」


 翌日。月曜、ウェロウは仕事だったがエイドは休みだったのである場所に出かけた。それは一度きたことのある、地下鉄への入り口をいく。入口にはいろいろな人々がたむろしている、街角の売人、明らかに裏社会の人間、入口だけを監視している警察官。その先をくぐると、旧時代に地下鉄としてつかわれた地下空間があり、その入り組んだ先の深部に、クロベーの診療所があった。

「おお、お前さんは」

 驚くことに、相手は自分の事を覚えていた。相談内容も、何もかも。話は早い。エイドはクロベーに、ある噂からなる願い事をした。

「あんた、患者の情報を高額で売っているという話だろう、おしえてくれ」

「……」

 無視をされた。そして

「帰ってくれ」 

 といわれた。


 仕方なくいうことをきき、彼はクロベーの仕事が終わるまでまっていた。夜が深まりすべての患者が診療をおえるまで。

「ガラガラ」

 クロベーは、そんな彼のことを患者からきいたらしく、すべての仕事をおえたあとにでてきて、いった。

「まあ、入れ、だが、私にも信念がある、売る情報は限られている、もし、あんたが買おうとしている情報が、あまりに不条理をもたらす、つまりあんたがいかれた犯罪者なら、情報を売る事はできない、あるいはマフィアや悪同士の抗争ならかまわんし話は早いんだがな……しかしあんた、いかにも表社会の人間じゃないか」

 エイドがだまっていると、医者はエイドを促し静かに室内に案内し診療所を閉じた。



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