現在

 一方現在に時間は戻る。朝方、“CROW 、紛争調停エージェント”の“R”の訪問とある忠告をうけて、夜は周囲に警戒しながら、帰宅の途に就いた。そしてその時は突然やってきた。

 目だけをあけた覆面にコートをした男が、ウェロウの数メートル先、車道をへだてた場所に現れたのだ。そして拳銃をかざして、叫んだ。その間数秒、ウェロウは“プロだ”と判断したが、抵抗する余裕もなかった。

「ウェロウ!!死んでもらおう」

 すぐにトリガーがひかれ、銃声がなった。

《ドンッドンドンドン!!》

 ウェロウは死をさとり、覚悟した。しかし、めをつぶって、まだ自分にそれまでと同等の意識があることに気づくと、すぐさまお尻のポケットから護身用の拳銃をとりだしてかまえた。それと同時に、目の前に奇妙な光景がとびこんできた。

「ドガガガ」

 なにか、鉄塊が拳銃の弾をうけとめたようにうごき、車道をころがっていき、ウェロウの目の前にたどりついた。そしてそれは全身をまるで精密機械の内部のように変形させ、いった。

「ウェロウ、まだあきらめてはいけません、あなたは“証人”となるのです」

 変形が終わった男の、その声と姿に驚いた。スーツ姿の無表情気味の男、彼は“R”だった。

 すぐさま“R”は彼にちかづいていく、拳銃から弾丸が続けざまに表れたが、そのすべてを手の甲で彼ははじいた。そして、敵がすべて弾丸を打ち尽くして、カチカチとトリガーをからなりさせたころ、ウェロウにいった。

「今です、あなたの出番です、私は“人に手をだせませんから”」

 ウェロウは、今朝の出来事を思い出した。早朝ニュースになったが“メラス”のデータが抹消されたことと、その犯人がわからず警察内部がごたついていること、そして“R”は夫の事件とそれが関わりがある可能性があるといっていた。ウェロウ自身の命が狙われる可能性があるとも、今朝詳しく説明されたが“CROW 、紛争調停エージェント”は国の独立性の高い調査機関らしい。重に不正や紛争の疑いがある時にその芽を摘む。そして“R”はその、最先端アンドロイドエージェントらしいのだ。だから、“原則”により、彼は人を攻撃することはできない。

 やがて、ウェロウは拳銃をもっていた男を背負いなげた。そして勢いよく彼の覆面をとると、そのフードを被った男の顔が明らかになった。彼女は、言葉を失った。

「……ッ!!」

 例の黒人警官、ウェロウとかつて同僚だったホビオだった。

「ホビオ……どうして」

「!!ッ」

 ホビオは正体を見られたことに驚き、そのまま拳銃をしまい立ち去ってしまった。


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