サディアスと偽り
そのころ、サディアスはアルヴィンの部下と電話をしていた。電話口の向こうから焦った声でこう話しかけられる。
「本当にリーダーがこれを望んだんですよね」
「ああ、そうだ、俺に本音を話してな、シメオンには話したくなかったらしい」
「あの二人が……」
「最近、アルヴィンは復讐の件に躍起になっていて、二人は仲互いしているだろ」
「ああ!」
「人間は、あるいは親友のような関係でさえ、同じ空を見て同じものを目指しているとおもっていたら、ある日からそれが別々のものを見ていたって気づくこともあるのさ」
「なるほど……」
「納得したろ?」
「ええ、実行します……エイドを、仕留めます」
暗がりのある廃墟の中で、サディアスは電話をきると、笑った。
「これで、仕留められるはずです」
奥には顔の見えないスーツの男が、ネクタイにてをかけて根本を整えながらにやりと笑った。
その日、エイドは夕方に仕事を終えると帰宅していたが、見覚えのない所から電話がかかってきて、あまりにしつこいのででると、向こうから聞き覚えのある声がした。
「エイド!!エイド!!助けて」
じっくりと頭の中で整理する、いくらかかすれてわからないが、どうやら頭の中の判断に狂いはないようだ。だが気が動転して、思うように言葉がでてこない。
「……ウェ、ウェロ……」
「そ、そうよ、助けて……妙な男たちに捕まったの」
気が動転した彼はすぐに、ウェロウのいうように案内されるままにその場所へむかった。ウェロウの声は震えており、時折別の男たちの指図する声などが聞こえる。
(急がなきゃ、急がなきゃ)
電車を乗り継ぎ、急いで向かう、慌てすぎて気づかなかったが案内されたそこは、自宅から20キロ近く離れた郊外だった。
エイドは、そこで苔むした廃墟を見つけた。その廃墟の奥から、電話の声と全く同じ声がきこえた。まるで壊れたロボットのように同じ言葉を繰り返している。
「エイド、助けて、エイド……お願い……」
ウェロウの悲痛な叫び、とまどい、息継ぎの様子、まぎれもなくウェロウのものだ。エイドが、精工なアンドロイドが間違えるはずはなかった。中からは、男たちの声も聞こえた。
「来る前に一発やっちまおうぜ」
「死んだら元も子もねえ」
「変な趣味はねえからな」
エイドが頭の血管が切れるほどに逆上し、叫びながら、突進する。そこはコの字型の廃墟の庭で小さなサッカーゴールがおかれていた。その目の前に男たちはたっていて、その男たちに囲まれて裸にされているウェロウ……ではなかった。そこにいたのは、まったく別の金髪のアンドロイドだ。
「!!ウェロウ!!」
だが、エイドは逆上してそのことに気づかず、そこにいた3人のスーツの男たちを殴り倒した。瞬く間に男たちは殴り倒され、地面にのびた。あまりにもあっけなく。
そして、エイドは、憔悴しながらウェロウに手を伸ばす、よくみると自分が手を伸ばした先にいるのは、上半身だけの女性、それが椅子の上にのせられている状態にあると気づいて一瞬またパニックになったが、アゴをつかんでかおをみると、やはりそれは朽ち果てつつあるアンドロイドであるとわかった。
「……!??」
その瞬間、彼の脳内である推測が成り立った。ウェロウに見立てたそれはいまだウェロウによく似た声を発していたが、その音声は、昨今話題のAIで作られたディープフェイク音声であると。
「しまった……罠だ……」
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