忠告
翌日、ウェロウが朝起きると、テーブルの上にいつも置かれているトレバーの写真にひびが入っていた。ウェロウは妙な胸騒ぎを覚えた。それはそれを目撃した事よりもそれ以前に目が覚めた瞬間から、嫌な予感がしたのだ。自分にとって、これまでより一層大事な人となったエイド、その寝顔を見ながらも、不安を払拭するように彼より早くいつも同じ棚の上のコルクボードに立てかけてある家の鍵をとり仕事に出かけた。
ふと、家を出ると、何者かの気配を感じ振り返る。するとそこにスーツ姿の男がたっていた。
「あなたは……?」
「覚えておいでですか」
男は、にやりと不気味な、それでいてまじめな姿勢を崩さずに、名刺とともに名乗りをあげた。
「私です、以前あなたにコンタクトをとった“CROW 、紛争調停エージェント”の“R”です、あなたに及ぶ可能性のあるいくつかの危機について、忠告にあがりました」
その日の昼間、アルヴィンとシメオンは直近の仕事について話し合っていたが、そこに慌ただしく、顔中に汗を流したある男がはいってきた。それはサディアスだった。
「アルヴィン!!まずいぞ!!」
「!?」
そして、彼は言い放った。
「お前の部下たちが暴走して“奴”を襲うって!!俺もこんな事は望んでないんだが!!」
すぐにアルヴィンは外にでて、他の部下たちに情報を集めに急いだが、シメオンだけは、アルヴィンをしばし奇妙な眼光をむけて、無言でたちさったのだった。
アルヴィンは誰もテントの中からいなくなると、ニヤリ、と笑った。
丁度その頃、警察庁本部では警察幹部の重役らしい制服を着た小太りの中年の男と、警察機構人工知能統治システムのAI“メラス”が、会話をしていた。その男が入口を閉めたとき、いつもより厳重な閉め方であり、かつこの会談は、あらかじめ入念に確認されたスケジュールであったため“メラス”はAIながらにおごそかな気持ちで彼を待ち構えていたのだと思う。
「君にいくつか質問がある、君は“トレバー”の複製アンドロイドである“エイド”を君の思考プロセスの判断によって、“ある女性”に引き渡したね」
「ええ、そうです」
「その女性は、亡くなったトレバー君の妻だった」
「ええ」
「だがおかしいことだ、重ねて質問するが、トレバー君はいくつもの勲章をもち、かつ地元で英雄視されているほど立派な警官だった、一般的に“一定程度優れた警察官の複製アンドロイドは製造されない”そのことは知っているね?」
「はい」
「では、なぜ疑問を抱かなかったのかね?」
「それは、人間に過ちはつきものだからです」
「ふむ……奇妙な回答だ」
しばらく男は顎髭をいじっていたが、少したつと考えをまとめ、ふりむきながら“メラス”に質問する。
「君は“秩序”のためのAIであり、その思考プロセスと、業務には一貫性が求められる、では聞こう、なぜ“ウェロウ”との一連の会話や映像を記録していなかったのだね?」
「―!!」
「君は、トレバーの事件に関する情報を日頃から調べたようだが、あの事故は悲惨なものだ、あの事故では彼の相棒も犠牲になったのだ。そもそもあの火災は、貴族都市に害をなす人間がおこしたものだ、それ以外に、調べる必要のある情報が?」
「私、私は……」
「君は、いままでよくやってくれたよ、だが真相を知った、もしくは話すぎた怖れがある」
にんまりと笑うその男の表情をみて、メラスはその後の自分の運命を確信したのだった。
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