望郷

 ある夜の事、ウェロウの家で。

 ウェロウとエイドの二人は映画をみていた。静かな夜で、二人はお互いにくっつかずとも距離をとりすぎず、テーブルの角を挟んだ二つのソファーの真ん中にすわっていた。映画は序盤が静かな導入で、徐々に物語の主人公の背景に迫る、渋く、ノスタルジックな西部劇だった。そのせいか、エイドはなんだか無性に懐かしい記憶を思い出しそうだった。何だかそれがデジャブのような感じを覚えた。警察官だった頃に感じた気もするし、そうでなかった気もする。何かを思い出せそうで、思いだせない感覚。いつのまにか、うつらうつらと舟をこぎ、眠りに入っていた。


 それは奇妙な夢だ。何者かにホログラムを見せられていて、話をされている。詳しい解説を、まるで〝記憶の継承〟を諭されているような、奇妙な夢。

「いいか、俺たちはあそこで出会った、警察官になり数々の嫌なものを見た、汚職や、哀れな犯罪者、不条理な事故だの、俺は理想に対する現実をしって、街が見下ろせるあの丘で、ただ街をみていた、何もかもが嫌になっていた俺は警察のバッヂを手に取り、あの丘から投げ捨てようとしていたんだ」

 そこにいたのは、トレバー本人だった。再現映像のようで、夢にしてはおかしい。トレバーはバッチを放りすてるしぐさをした。その瞬間、エイドは急激に記憶、頭の中に情報の流れを感じた。

「あの丘で、ウェロウとトレバーは出会った、そう、かつて郊外との“壁”を建設する予定だったのが、地元政治家の汚職により一時頓挫し“丘”として取り残された残骸、今では恋人たちの有数のデートスポット」

 そこでトレバーはバッチをすてようとしたた瞬間に、ウェロウに呼び止められた。

「待って!!あなた警官でしょ!!あなたが諦めたら、どうなるの?」

 聞くとウェロウも警官という事らしく、二人はその後意気投合した。


 現実では、ウェロウが静かに映画をみていた、だがラブシーンなどが流れると深くさとったような、冷めてうつろな瞳に変わり、映画が早く終わらないかと思っていた。その瞬間だった。

「〝街の見下ろせるあの丘で〟」


 その翌日、ウェロウはエイドに貴重なアンドロイド用の高級レーションをプレゼントした。食感なども高級ないくつかの食品を再現したものだ。缶状のものにフタがついていて、そのフタにモニターが付いていて5つほどバリエーションのある料理の味と食感が再現できる。

「どうしてこれを?」

「いいえ、いつかあなたに“あの丘”につれていってほしくて、いいえ、私がつれていくわ」

 そういって笑った。

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