裏切り。
それからしばらくは、なぜだかエイドにとって平穏な日々が続いた。ウェロウは以前のようにつっかかってこなくなったし、夜にトレバーの写真に祈ることもなくなった。かといって、エイドにトレバーであることを強要することもなくなっていったのだ。なぜだかわからなかったが、ある夜、デートという名目の映画や、夜のレストランでのディナーのあとに、家にかえってきて二人で晩酌をしている時に、ふっとウェロウはそのことを話してくれた。
「あなたは、赤子だと思うのよ」
「赤子?」
「いいえ、変な意味じゃないの、丁寧に説明するから少しきいてくれる?」
「ええ」
長く共に過ごすうちに、エイドはウェロウの雰囲気や人間性はわかっていたので、きっとこれも深い意味をもっているのだと思った。それよりなにより、美しいエイドのしぐさと何かがふっきれたような感じ、紙を結ぶこと、思いにふけりグラスからひと飲みすること、窓から遠く街を眺めること、それらしぐさのひとつひとつが神々しいような雰囲気を放っていた。暗い過去を前向きにとらえようとしているのだという雰囲気を感じられたのだった。
「つまりよ、あなたは誰でもないあなた、機械生命であっても、新しい命と使命を授かっている、そして人間でいえば生まれたばかりの赤子だわ、そう思うといとおしく思えてきて……もちろんこれまでもそうだったけれど、母性にも似たものを感じるようになったの、トレバーとはそういう話はあまりしなかったけれど、私あなたみたいな子どもなら歓迎よ」
そういわれてエイドは悪い気はしなかった。もしそれが一時のまやかしや思いつきでも、ウェロウには感謝していたし、自分にも自身がつきはじめていた。そして自分がウェロウに、妙な負担や期待を抱いていたことがわかった。
(自分のこれからがどうであろうと、この人には感謝をかえさないと)
そう思えたのだった。
それから二日ほどだった日の事だった。その夕方に仕事をおえて帰宅の途に就いたエイドは、その日はなんだか妙な視線を感じる気がしていたがあまり気にしていなかった。だがいくつかの道をすすみ、自宅への直ぐそばの道を曲がったときだった。死角から人がとびだしてきたのだ。
「あっ、すみません」
と、反射的に人がいいエイドは反応して相手の様子をうかがった。だが、相手は上を見上げて、にやり、とした。その手の中には刃物がにぎられていたのだ。すぐに自分がぶつけられた右肩あたりをみたが、さすがロボット、傷は深くなかった。ただ、衣服が破れた程度だった。
「強盗か!!」
2,3度ナイフの突きをよけたが、相手はしつこく付きまとう。そこは警官として訓練されてきただけに、すぐに対応できた。だが疑問だったのだ。敵はなぜそんな武器でロボットに挑んでいるのか、しかも同じ場所を狙っている。
「何が狙いだ!!」
「そのペンダントをよこせ」
そしていままでの攻撃された場所を思い返すと、本当にペンダントだけが狙いのようだった。
「なぜ!!」
「さあ、お前はあの女が大事なんだったら、早くそれをわたすんだな、あるいは、お前の命まで!!」
「どういう意味だ!!」
ガシっと、その瞬間エイドは図らずも強盗の手首をつかんでしまった。強盗はひるむ。力をいれたつもりがなかったが、相手の腕がミシミシと音を立てているのを感じて力をゆるめた。
「お、俺は命令されたんだ、リーダーから、だがお前は知らないだろう、お前の愛するウェロウの友人が、お前を裏切っている」
ふと、驚いた瞬間に手の力が緩んだのか、強盗はその場から立ち去る、そして一瞬振り返り言った。
「俺たちの仲間が、必ずまたくるからな」
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