密会
エイドが郊外の医者から出てきたとき、人影が物陰から彼をのぞいだ。エイドはどうせ物取りか何かだろうと警戒をしつつも、あまりきにもとめなかったが、すばやくその場をたちさると全然ついては来なかった。だから、すぐに彼は忘れてしまったが、後から考えると、もしそれに気づいていれば、話はこじれなかったし、あんな悲劇は訪れなかったかもしれない。もっとも、この物陰からみている人間さえ素直であれば、エイドがあれほど苦しむ必要もなかったのだろう。
物陰から彼をみていたのは、あろうことかエイドその人だった。彼女はあることを迷っていたのだ。
「早く、心を決めないと、真実を話す決心をしないと、いつまでも彼に負担をかけていたら、裏腹に、冷たくなっちゃうし、無駄な口喧嘩だってふえた、私が、なんとかしなきゃ、なんとか」
彼女は震えるこぶしを握り締めその場を後にした。
また別の郊外で、カノが薄汚れた喫茶店である人をまっていた。彼は遅れてやってきて、こちらに気づき、軽く手をふって、席についた。
「あなたが“サディアス”ね」
昆虫の触覚ように前髪をたらし、昆虫のように骨格がかくかくとしている、後ろで毛を束ねた長髪の男だ。彼は顔に傷のある、右目の眼球がサイボーグのあの男だ。
「勘違いしないでほしい、リーダーは忙しいから、この件は知らない」
「だからよ、だから交渉ができるのでしょう?」
そういって、せわしなくカノはずっしりと重い封筒を差し出した。
「気前がいいな」
「ふん……」
小一時間ほどカフェで二人は何事かを話しているようだった。別れ際になってカノはいう。
「これだけあんたたちに貢献したのだから、もうひとつ教えてよ、どうしてあの子をつけ狙うの?」
「いや、俺はそんなに気にしちゃいないさ、だがリーダーがな、まあ簡単なことだ〝ウェロウの元夫であるトレバーは、裏社会とつながりがあった〟やつはそう思い込んでいる、事実がどうであれ」
「あきれた、記憶を失ったからって……まあいいわ、あなたたちの事はあなたたちで解決すれば、私はこれで、失礼するわね」
その場を後にして、人気のない路地に立ち寄ると、カノはどこかへ電話をかけ始めた。
「もしもし」
「もしもし、カノよ、連絡をとったわ、これでいいのね〝アヌイ〟」
「ええ、助かるわ」
「勘違いしないでね、私はもともとこうするつもりだったんだから」
「それでもタイミングがあるでしょう、私は古い友人である“闇医者グロベー”から連絡をうけた、このタイミングだからこそ、色々な準備ができるでしょう」
「私は……まあ、ウェロウさえ無事なら、なんでもいいのよ」
悲しげな瞳で下をみたあと空を見上げて、少し物思いにふけっていった。
「でも、本当に惜しい人をなくしたわ」
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