異変

 二人の日々が窮屈になっていくのと反対に、エイドの日々は少しずつ好転していった。彼は、記憶の不具合故に能力が発揮できなくなっていたが、塗装屋へと職をかえると、次にはネットでライターの仕事をするようにもなった。人に、というより、アンドロイドたちにそれが受けたのだった。

 エイドはその頃から人の気持ち、いや、アンドロイドの気持ちのほうが特にだが、なんとなく理解できるようになっていった。理解できるだけではなく、なんとなく、相手の要求するものが理解できるようになってきたのだ。それ故に、彼は他者から好まれるようになり、コミュニケーションをうまくやりくりできるようになっていった。それがまるで、警察官だった頃を忘れ去るように、それでも彼は自分に自分で違和感はもたなかったのだ。コピー元が〝トレバー〟という偉大な人物であるという事を自覚していたから。

 そんな時カノに呼びつけられた。

 

 彼女の家につくと、最初はなんてことのない長話をした。トレバーという警察官が、最後、〝大火災〟において多くの人々の命をすくったこと。彼が現場においついたとき、その現場はひどい有様で、人々は呆然と立ち尽くすしかなかった。彼だけが無茶をして火に包まれる家屋に飛び込み、その相棒の〝ドゥーイ〟という親友も一緒に、火に飛び込んで多くの人を救いだしたあと死んだことなどだ。その後、話が人区切りつくと、彼女は突然咳払いをした。先にきりだしたのは、エイドだった。

「どうして今日は、二人だけで話したいと呼びつけられたのでしょうか?」

 しばしの沈黙、コーヒーを飲み、やがて窓辺から空をみあげると決意したように彼女は口をひらいた。

「……単刀直入にいうわね、私の予想をいうわね、きっとあなたの出生に秘密がある、あなたのコピー元は、彼じゃないわよ」

「……」

 もともとウェロウがエイドを引き取ることに親友が反対していたという話を聞いていたエイドは、その時は特段気にも留めなかった。コーヒーをいただき、返答する。

「お話というのはそれですか?」

「それだけじゃないわ、あなたの人生にあの子を巻き込まないでほしいの」

「というと?」

「あの子は〝たった今だけ〟あなたを必要としているにすぎない、ずっと必要なわけじゃない、あなたの過去やあなたの能力、あなたのしぐさは、結局〝トレバー〟ではないから、やがてあの子の重荷になる、もしあの子に邪見にされるような事があれば、これはあなたの為でもあるのよ、すぐに距離をおきなさい」

 そういわれて、ウェロウは話をしようと迷ったが、その時ばかりは言葉や人の気持ちの意味がよくわからなかったので、最近の不仲の話はせずにおいたのだった。

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