新しい日々

 その頃、ウェロウはカノとよく話をした。その心の中には、自分の選択への自分自身から発する疑問があったのかもしれない。今更悔やんでもいないが、自信がない時はいつもカノを頼ってきた。それくらい信頼のおける相手だったのだ。


 当のカノは、以前と打って変わって協力的だった。ある時、ウェロウとカノ宅で休日を過ごしている時に、カノがアンドロイド化した人間の内で流行っているという、神聖なる儀式“生まれ変わり”アンドロイドやサイボーグが生まれ変わったときに、別人として受け入れる方法を提案してきた。それは、電脳空間においてお互いの記憶と意識を瞬間的にリンクさせるという方法だった。それは痛みを伴うらしいが、その痛みこそが通過儀礼なのだという。

「生きてる世界がすれ違っていてもいいじゃない、あなたの特別さをほこれば」

(やけに協力的なのよねえ)

 気分よく話す。自分の提案にあんなに非協力的だったのに。カノはその時、小説をソファの下に隠した。ふとカノが用事で席を外した時に、ソファの間に挟まっているその本を手に取り中身をちらりと見ると、それは“アンドロイドと人間の恋”を描いたこてこてのラブロマンスらしかった。

「カノ……最近やけに協力的だと思ったら、私はそんなつもりで」

「い、いえ?そんなわけはないでしょう?私は本当に自分で考えて……色々知り合いもあるのよ、ちょっと非合法な事をしている医者がいて、でも彼なら“その儀式”もしくは彼の、エイドの失った知識を取り戻す方法を知っているかも」

 そういうカノの言葉はうわずって裏返っていた。

「カノ、あなたは何のために」

「勘違いしないで、私はあなたが安寧を取り戻すなら何でもするつもりよ、学生時代、あなたに幾度も助けられた、内気だった私をあなただけがかまって、変えてくれたのよ、私は富豪の娘であることを隠し、そしてずっとコンプレックスを抱いていた、人と同じ苦労など知らないから」

 さっきとは違い、その顔は真剣だった。確かに、それはそうだった。学生時代の彼女は初めてあったとき、地味な眼鏡をしていて、目立たないように服装や髪型も控えめだった、それが人のカンに障ったのか、いじめられていた時もあった。だがウェロウはその時何度もたすけたのだ。持前の笑顔で、時に一緒になってひどい目にもあったが、最終的にウェロウの人懐っこさと賢さに、人はあきらめてカノにもウェロウにも普通に接するようになる。カノはとてもおとなしかったが、それが溌剌とした彼女、ウェロウには新鮮でかわいらしかったのだ。

「わかったわ、その儀式とやらも、やってみましょう」

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