遺影
エイドのいないある時、ウェロウは、トレバーと撮った写真に向かって、独り言をつぶやいていた。
「こんなの嘘っぱちだとわかっているわ、“全てうそ、すべて偽物”けれど私は……の人の、あなたの残骸を、あの人造的な新しい生命の中に見出したいの、いずれ、この嘘を自分で消し去るから、どうかいまだけ、一瞬だけは、ゆるしてちょうだい」
そういって、泣くのだった。
同じ頃、別の男―郊外にいた男アルヴィンは、狭いテントの自分の机のウェロウの写真の横にトレバーの写真をならべ、その写真―特にトレバーの写真をじっと睨みつけていた。
「あの時、俺が助けにいったら、そう思うか」
そばにいる犬〝ブルー〟が、クゥンと鳴き彼の顔色をうかがう。
「いや、奴は逃げた、あのとき〝あの火事〟で確かに奴はしんださ、だが俺のほんの少しの記憶の中で奴は、逃げようとした〝郊外の人間などほっておけ〟と、その声だけが頭の奥に響いている」
どこかで、彼は冷静さをもっていた。額に手を当て両手でつめをたてるようにした。
「いや、すべては俺から始まったのかもしれない、けれど〝けじめ〟をつけずにいられるだろうか……」
そして彼は、また机の傍らに大事そうに花束とともに飾られた写真に手を伸ばす。聡明そうな天然パーマのかかった、やさしく、どこかの国の王子のような風貌の少年がそこに映っていた。
「ああ、ケヴィン、弟よ……お前の形見はこのカタナだけだ……ペンダントは、あいつに〝トレバー〟に渡したあとに紛失したんだ、お前が、自分が死んだときにはそのペンダントを調べろといっていたが……今では俺は、何もわからない……」
しばらく頭を抱えていたが、彼は唐突にたちあがると、こういった。
「今更覚悟をしても遅いとお前はいうだろう、だがお前が反旗を翻した警察や、壁の内側の人間に対して、俺もようやく敵対する準備ができた、お前は……何かを調査して、それであんな目にあった、必ずその時何があったか突き止める」
彼は形見の小刀に手を伸ばす。その半分機械的な奇妙な小刀に、そして記憶を呼び覚ます。弟が〝件の事件〟で死ぬ数年前に彼にゆづってくれた小刀。
(冷静な正義に目覚めたときこの小刀をもって、兄さん、この小刀は〝正義〟に反応するはずだ)
(おもちゃの小刀じゃないか?)
(いいや、兄さん、本当だよ、兄さんもサイボーグだろう、この刀は人の意思を読む)
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