ペンダントと不一致。

 エイドは暫く、3か月間ほどはやはり、ウェロウの家に対して遠慮と不慣れな感じがあった。それもずいぶん苦労してウェロウが説得し、―自分の元夫―彼と同じように過ごしていいというのでどうにかこうにか、遠慮なく生活できるようになったほどだ。

 エイドは暇ができ、一人になるとよくペンダントを見つめていた。

「ん……」

 丸みを帯びたいびつな四角形でところどころごつごつしたり、付きで足り凹んだりしている、機械的な装飾とみれば違和感はないが、まるで鮮麗されたデザインと思えず、メーカー品というよりは、オーダーメイドもしくはオリジナルの……素人が無理くり機械とそのケースをこの形に収めたような感じさえ受けた。それがまた不思議だったのだ。自分の記憶と同様に行き場のない存在のような気がして。


 平和な日々の中、怖れはたった二つだけだった。時折夢をみた。ウェロウは詳しく教えてくれなかったが、トレバーは火事で死んだらしい。勇敢に火事の中に飛び込み、逃げ遅れた人々を救い、そして、救えなかった一人と相棒とともに、だが妙なことだが、そうではない記憶もあるのだ、火事の中で、生にしがみつき、怖れ逃げ惑う自分の姿を見るのだ。


 もうひとつは……あの優しいウェロウの事だった。

 記憶の助けになれば、とウェロウはエイドに時折聖書を読み聞かせるのが、なぜだか、場合によってはエイドの調子が悪くなり聞いてられなくなり席をはずす、そうするとかならずウェロウは、自分に違和感をぶつける。

「神を信じなくてもいい、でも、私が神を信じることを嫌わないで、何か理由があるはずよ、前は神を信じていたのだから」

 言葉は優しいが、目の奥にほの暗く、威圧的な力を感じ、その時ばかりはウェロウの事を恐ろしく思うのだ、時折みせるウェロウの暗さ。それが少しの悩みだった。


 一番トラウマになったのは、4か月後の事だった。ウェロウは、エイドが寝た後、リビングで一人晩酌をしていた。エイドはふと、そのことが気になった。なにせ、エイドは心の病を抱えているらしい事はしっていたので、一人にしてはいけないと体を起こしウェロウに話かけようとした。だが彼は唖然とした。ウェロウが、写真を、トレバーの写真を大事に握りしめ、泣いていたから。

「どうにかあなただと思い込んでしまいたくなる、でも、彼は彼、やっぱり違うのね、それを認めてあげよう」

 そっと、見なかったことにして自室の布団にもどる。自分の脳の情報は所詮コピーだ。エイドはその時、その残酷な真実を直視して一睡もできなかった。所詮鉄くずの自分に、人間の模倣品に、魂などどこにあるだろう。それが死の恐怖を助長させた。


 けれど、こんな些細な事だろうと思えた。なにせ、ただ〝彼女にやさしくすること〟だけで、生きていることを、自分をこんなに認めてくれるのだから。

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