引き取り
「いいのね?」
「ええ、母さん、もう一度あの人に出会えるのなら……」
「……ウェロウ、いったはずよ」
「わかっているわ、ごめんなさい、あの人だと思っちゃだめよね」
その時の事を振り返ると、ウェロウは、ただ話を聞いてくれる人がほしかったのかもしれないという。でも、本当は優しく、相手の話をくらいの余裕のあったトレバーとの日々を思い出したかったのかもしれないとも。それが、あんな事件につながるとは、この時は誰も思っていなかった。
その後、警察庁直轄のアンドロイド収容施設に向かった。面談は午後6時から、面談の様々な確認のあと、引き取りのプロセスへ移る。
薄暗く味気ないフェンスとコンクリートに覆われたなんの様式美もない真四角の建物の入り口にたった。母がウェロウに尋ねる。
「本当にここ?」
「ええ、入口は狭いけど地下があって、そこに多くのアンドロイドが収容されているわ、メンテナンスをしたり、廃棄にしたり、問題を分析したり、そうした事をする場所よ」
厳重な鉄扉の玄関口の脇に、カメラつきの玄関チャイムがありそれを鳴らすと、無機質な男の声が帰ってくる。
「はい」
「6時に引き取りの面会を予約したウェロウですが」
「少々おまちを」
しばらく待たされ、男が返事をする。
「ええ、ウェロウさん、はいどうぞ……」
母と表情を確認しあうウェロウ。あまりにも人間味がなく、感情のない声。そして鉄扉は自動であき、向こうから出てきたのは、玄関の男とは対照的にやけにニコニコした制服姿の男だった。
「本日はすみません、わざわざ来ていただいて、面倒な書類の手続きもありますがどうかよろしくお願いします」
そして二人は中へ案内される。
その玄関の脇を通る時に、掃除用のアンドロイドだろうか、怒られているのがみえた。
「なんでそう、ぼーっとなんでもかんでも見つめるんだ、ただのお客さんだろうが、得たいの知れないロボットめ、早く掃除をしろ!!」
短髪でクマがひどく困り顔で、頬のこけた見るからに不幸そうな、しかし、どこかニヒルな魅力なあるアンドロイドだった。
数日後、会って話したいと呼び出され、親友のカノの家の近くのカフェであった。
向かいあって、カノは見るからにイライラしている様子だった。
「って、それでそこで掃除させられてたの?その、エイド君」
「ええ」
「ええ、ってあなた」
「カノ……そんなことじゃないでしょう?あなたが気になっていることって」
そういうと一瞬驚いて、しかし次の瞬間には、コーヒーを手に取りのみながら、またいらいらしたように貧乏ゆすりを始めるカノ。
「はあ、あなたがそう、決断的なのは、久しぶりね、もう警察現役時代くらいかしら、おっと……」
ふとカノはウェロウの様子をみる。ウェロウは気にしていないようだったので、少しわざと語気をあらげて話を続ける。
「どうしてなの?どうして私の考えを無視してまで、彼を引き取る事にきめたの?」
ウェロウは、少し考え込んだ。しかし、顎に手をあて色々と考えた末に、ようやくそれらしい答えを見つけて、カノに向き直った。真正面からじっくりとみつめた。
「私ね、つい最近バッグを盗まれたの、盗まれちゃまずい物なんてほとんど……財布は別のポケットだったし、バックの中には彼との思い出くらい、写真でもないわ、いつか彼にもらったアクセサリーや、デートで使ったチケットや、映画のパンフレットとか、でもあのとき、盗まれたときに、それだがまだまだ大事だと思ったの、向き合えていないから……
「彼を思い出したわけじゃないのね?」
「……相手がロボットなら気を使わなくてもいい、私は少しずつでも過去と向き合い、消化したい、そう思うのよ」
不満そうなカノだったが、どこか納得した表情をみせ、ふんぞり返るとカフェの窓側を見つめるのだった。
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