休息。

 久しぶりの友人の再開、会話ははずみ、近況を話し合ったり昔話に花を咲かせた。だが彼も、一つだけ気を使って、ウェロウの夫〝トレバー〟のことには触れないようにしているようだった。そんな彼の心遣いでむしろ胸が痛くなった。でも、悪い痛みではなかった。まるで彼と喧嘩をした後、仲直りをしたときのような、かさぶたが治るような痛みだった。

「君は今でも優秀だったと評判だ、今からでも戻ってこないか?その、色々大変だとは思うけどさ」

「色々って……」

「まあ、辛い事を思い出すとか、ただ、過去にとらわれるのもつらいだろうから、無理強いはしないけれど、いろんな選択肢の一つだと思ってくれ」

「ええ……」

「後悔にすがるのはよくない、彼は……正しいことを」

「わかっているわ!!」

 つい語気をあらげてしまった。

「ごめんなさい、つい」

 すぐに訂正して、水をのみほす。とりつくろうとしている自分に気づいてコップがプルプルと震えた。ホビオは苦悩にみちた顔をして、すぐに立ち上がり、優しくウェロウを見下ろすと、その肩にかるくふれた。

「すまない、もういくよ、大丈夫……焦る事はないさ」

 ふと、ウェロウの脳裏にあの時の後悔がにじむ、どうして、火事に飛び込んでいった夫の肩を掴まなかったのか、それともどうして、火事に一緒に飛び込んで行って救助をしようとしなかったのか。無理だとわかっていても、どうせなら二人で死んだほうが……。

 瞬間、はっとする、自分の中の暗い考えに気づき、母親や親友や優しく微笑むホビオの顏が浮かんだ。

「ホビオ!!」

 彼は入口の扉に手をかけていたが、ふっと振り返る。ウェロウはのどにてをあてて、なんとか声を出そうともがく、そうして胸のペンダントに手をあてる、そのペンダントは筒状で、中にはある写真が入っている―。彼の言葉とともに、それを思い出して、声を上げようとする。彼はある場所で一緒に写真をとりその後ろにこう記した。

〝お互いがいつ死んでも、この場所に戻ろう、もし僕に何かあったなら、この場所にいってほしい〟

 このペンダントは、ある条件で映像が流れる事になっている。条件とは、その〝ある場所〟へと再び向かうこと。


 ごくり、と一呼吸おいて、ウェロウはいった。

「ありがとう、私、前向きに考える事にするわ」

 その時、彼女はすでにエイドを引き取ることを決意したのだった。

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