帰宅の途
それからウェロウはそこを後にした。だが、職場にあるもの―思い出の写真を忘れたことを思い出してとりに帰ろうとした。それが彼女の決意と決心を後押ししてくれる気がしたのだ。ずいぶん―気が重かったが。
その道中、彼女は大通りをあるいていた。気が緩んでいたのだろうか、周囲を見渡す気力もなかったのだろうか、あるいは彼女の中の迷いがそうさせたのかもしれない。バッグを抱える手が緩んでいた。
〝ドサッ〟
「ちょっと!!」
初めは、それはただ単に他人に肩をぶつけられたのだと思った。だが次の瞬間、するりと抜けるバッグと不自然な軽さに咄嗟に後ろを振り返る。
「泥棒!!!捕まえて!!」
全速力で走りだすウェロウ。彼女のバッグを盗んだのは帽子とジャンパーをはおった若い青い髪の男だった。
「まって!!大事なものが入っているの、大事な……ものが」
そこで息切れして立ち止まる。
(大事なもの?……彼の記憶のはいったスマホや、写真たち……でも今の私にとってそれは本当に……)
ひざをつき地面をみていると、直ぐ傍のストリートミュージシャンらしきいでたちでウェーブのかかった長髪の若い男に話かけられた。
「大丈夫ですか?すぐそこに警察がいますよ」
「!?」
「あ、あの、息が……お願いします」
意図を組んでくれたその男が、警察によびかける。遠目には黒人警官らしい事はわかった。
「へい!!そこの警察官!!ポリス!!!」
事情を説明すると即座に警察は走り出した。ウェロウはその警官の顔を見る余裕もなかった、息切れをととのえて、姿勢をかえたりしていたのだ。しばらくして、若い男とベンチで座ってまっていると、さきほどの警官が汗をながして、見覚えのあるバッグを手に持っていた。
「大丈夫ですか、レディ、ものは取り返しましたよ」
「……!!?」
ウェロウは一瞬目を疑った。相手もその動作と、ウェロウの顔立ちをみてはっとしたらしい。
「あれ?あなたは……もしかして、ウェロウ?」
「見違えたわ、ホビオ」
ホビオは元同僚だ、正義感がとてもつよく、普段はお調子者。彼女が警察をやめたあと昇進したが、正義感が強くあまりにそれが上司の気に障ったので警部補という大事な役職を下ろされたと聞いた。とても頭がよく、同年代の中でもっともすぐれた成績だったが融通が利かない所はあった。
「まさかこんなところであうなんて、少しだけ話せない?」
「あ、ああ昼休憩がもう少しだ、ちょっとまっててくれ、相棒に伝えてくる」
ホビオもうれしそうにジャンプをしながら、傍らで犯人を捕まえていた同僚に話にいった。
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