椅子とテーブル

 奇妙な入り組んだ模様の図形が描かれたテーブルクロス、簡素だが機能的な木製の全体的に丸みをおびた椅子、不思議なのはもうかれこれ何十年もこれを使っているのに一向に古びた感じがしないことだ。そんなことを考えていると、母親がキッチンから帰ってきた。お茶のポットと湯飲みがテーブルに置かれた。綺麗な花がテーブルに飾られている。

「変わらないわね、母さん」

「あれ?それはどういう意味?」

「いつきたってこの部屋はきれいで、まるで時がとまっているみたいだわ」

「ふふふ、私の友達もそのことをいって、まるで魔女の部屋だって茶化すのよ」

 2,3そんなたわいのない話をしたあと、母親はポケットから小さな水晶をとりだした。これは二人の中の合図である。

「何か……相談があるんでしょう?」

「お母さんはなんでもお見通しなのよね」

 小さなころ、悩みやハッキリといえないことがあるとこの水晶を通して二人は会話をした。昔はウェロウもそれをもっていて、食事中にそれをだすと母親が食後話をきいてくれる。はっきりと悩みの仔細をいわなくてもすむ。なぜなら―占いを始めましょう―つまりは占いというていで、娘の話を聞いてくれるのだ。

「私が水晶をみてあげる、あなたはいつも通り、私の言う事を聞いてもいいし聞かなくてもいい」

 吸い込まれるように水晶を見つめる。母親は続けた。

「あなたはまだ、過去に引きずられているのね?」

 珍しく母親から話を始める。いつもは娘の自主性をまって、打ち明けるのをどれだけ時間がたとうとも待っているはずが。

「母さん、私はね……私は」

 ウェロウはここ最近のことをすべて母親に話した、職場での些細なことや、自分に向けられる哀れみの視線のことや、夫の頭脳をコピーしたロボットを引き取るかどうかという事を。母親はこういった。

「あなたが、あなたの夫を連れてきて、色々な話を―休日の話や、些細な言い合いの話、出かけた話や、将来の展望の話をしてくれることをいつも楽しみにしていたわ、だって、手に取るようにわかるのだもの」

「ええ……」

「私の意見でしかなけれど……」

 母親は深く、しかしゆっくりと呼吸をすいこみ、少しその息をはいてから続けた。

「いい?あなたは急ぎすぎているわ、周りがどう思おうと関係ない、立ち止まる必要があるなら、立ち止まればいい、人にいわれて夫の事を忘れろとせかされるのでしょうが、肝心なのはあなたの気持ちよ、きっと何か思い出したいことでもあるのかもしれないし」

そうなのだ、母親は自分の言葉や悩みを一通りきいたあと、関係ない話のはざまにいつも自分の意見をまぜる、そのおかげで、常にウェロウにはモノを考える余裕があった。

「ありがとう……母さん」

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