【逆恨み】
○月〇日。
俺は、澄子の店にやってくるなり、大きな溜息をついた。
「澄子。1本つけてくれ。」澄子は、何かあったのだと判断して、こういう時の為の二級酒をコップに入れてだした。
「なんでや?なんでやねん?」倉持も澄子も辛抱強く俺の言葉を待った。
「保護司の先生が殺された。」「知ってる人?」「うん。刺した被疑者は飯室孝史35歳。深度先生は、親身になって世話してた。先生が世話した工場の社長は、エエ人や。先生もええ人や。でも、工場でイジメに遭った。直接やない。陰で言うてるのを聞いてしもたんや。『前科もん』と言うのを。工場は2ヶ月で辞めた。面接の日。飯室は先生を刺した。心臓に刺さった。例のナイフガンやない。出刃包丁や。本庄先生は、最初嫌がった。でも、『情状酌量』で争うらしい。心ない言葉にパニックになって、追い詰められた。それで、逆恨みで深度先生を刺した。工場の従業員達は、誰もそんな事言うてない、って言ってる。でも、似たケースは、世間ではザラや。他の、深度先生に世話になった人らに聞き合わせた。先生はエエ人、他の答はない。この人にやったらついていけるのかなって思わせる人や。誰かが殺されたとき、他人に恨まれる人や無い、ってよく言う。でも、『逆恨み』に正当な理由、正義はない。」
「その通りや。」と澄子が言い、店の入り口に立っていた本庄尚子弁護士が入って来た。
「あ。先生。結婚おめでとうございます。」澄子は、慌てて奥に行き、結婚祝いの『粗品』を差し出した。
「ありがとう。幸田さん、花ヤンと横ヤンのお陰で、『前科もん』発言のご当人を見付けたわ。南部興信所のお陰ね。裁判の行方は分からないけど、一歩前進よ。」
澄子は、コップを倉持と本庄先生に配った。
―完―
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