年の差婚

 ○月〇日。

 幸田は、帰宅すると、澄子を探しまくった。どこにもいない。探しながら、幸田は高校受験の時のことを思い出した。

 高校受験を一緒に臨んだのは、幼稚園と小学校、計7年間同級生だった男だった。

 特別仲が良かった訳ではなかった。だが、併願で受けた市立の高校を幸田だけが合格した。俺がどう慰めたらいいのか、途方に暮れていると、彼は言った。「今日は、別々に帰ろうか。」俺が黙って頷くと、彼は何も言わずに去って行った。

 絶交した訳ではない。でも、もうそれきり会うことは無かった。

 運命は残酷だ。近所のお兄ちゃんに後で言われた。「合格発表はナア、家族に見に行って貰うか、先生に見に行って貰えば良かったんや。発表の日、風邪引いたことにして。何で2人とも合格してるって思った?」

 運命は残酷だ。今回、妊娠の検査をしに行く時、澄子は総子に会わせて行った。

 俺は、付き添わなかったことを悔やんだ。子供が欲しい、と切望していたのは総子も澄子も同じだ。EITOで総子の「お祝い」をしてから帰宅したのも、俺が悪い。

 ふと、思いついて、仲のいい、澄子の同業者のことを思い出した。店の電話メモ帳を探すより早い方法がある。倉持のアパートに近い店や。幸い、電話はすぐに繋がった。倉持も、その店を覚えていた。

 15分後。倉持から電話があった。「今、信号待ちです。奥さん、連れて行きますから。」

 それから、更に15分後。倉持は泥酔している澄子を会社の車に乗せてきた。

 2人して、澄子を布団に寝かせた。頼もしい後輩は黙礼して帰って行った。

 出逢った頃は、一回り以上年上だと思っていたが、澄子は7つ年上の42歳だった。

『恒例出産』。思えば初めからハンディがあった。澄子は若い頃産んで、事故で亭主と子供を失っている。『ういざん』じゃないから、可能性があるとは言われたが、確率を忘れていた。

 明日、所長に叱って貰おう。おっちょこちょいの俺を。総子は、同じ年の差婚でも、女が若いパターン、こちらは逆だった。

「あんた。」「何や。」「迷惑かけてゴメン。明後日から、ランチサービス出してもええかな?」「お前の店やないか。」「2人の店やで、旦那。」

 俺は澄子にせがまれて、手を握ったまま、眠った。2人の心が繋がっている、と思った。

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