共通体験

 ○月〇日。

 幸田は、夜中に所長から送られてきたメールを読んでいて、澄子が覗き込んだ。

「仕事のメール?」「うん。明日は午後から直接、名古屋に行くから、会議に出られへんからな。」

 俺は、澄子の夫になった。何でも話してやらないと、愚図る。女は厄介や。

 EITO大阪支部で起こった、おかしな事件のあらましを澄子に聞かせてやった。

「根っこは、イジメかあ。どんなイジメやろ?」「大方、万博の話ばっかりしてて、高村がようついて来んから、『村八分』したんやろな。いちいち説明するのもめんどくさいし。共通体験があるとないでは、雲泥の差や。転校生が虐められることが多いのは、共通体験がないからや。それを転校生が打破するのは、新たに共通体験を作って行くことや。でも、転校繰り返すと、そう上手くいかんし。今で言う『自閉症』になっても仕方無い。明日、行く名古屋は、高村の親戚の家や。」

「毒で寝たきりやったら、細かいこと聞かれへんからか。」「ああ。死ぬ可能性も高いから、裁判の時の情状証言は無理やろ。倉持は、俺と同行。高村の仲間になった奴らの証言は、花ヤンと横ヤンの仕事や。」

 澄子は、ドリンク剤を俺の目の前に置いた。

 俺は、所長に言って、日帰りは止めて名古屋に一泊することにした。一晩でも『淫魔』から逃れる為に。


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