第5話
朝川を見送るとヌルは遺体を埋葬せずに街道に向かった。ヌルは松明を取り出し、街道に松明を刺した。
ヌルは街道に沿って前へ進んだ。1時間も作業をすれば先の小屋が遠くにかすむほど進んだ。朝川がいない分、早く進んだ。ヌルは風の匂いを気にしつつ進んだ。途中で松明がなくなれば、枝と石炭を使い松明にして進んだ。それから3時間もすると、松明の残りが少なくなった。ヌルはアイテムの数を見て心もとないと思った。
ヌルは引き返そうとした。最後の一本を刺すと、遠くでまた小屋のようなものを見つけた。ヌルは全速力で走った。
ヌルが小屋の前に着く。小屋の周りには獣の足跡も人の足跡もない。
ヌルは小屋の前に立った。ヌルはドアを開けようとした。しかし、ドアは内側から力を加えられていた。ヌルはドアを叩く。
ドアの向こうから大声が聞こえた。
「入ってくるな!化け物!」
ヌルは体をびくりとさせた。ヌルは言う。
「僕は怪物じゃないです!あなたたちを迎えに来ました!」
「その証拠がどこにある!人に化けた怪物かもしれないんだぞ!」
ヌルは言葉を詰まらせた。首筋の穴を見たらどうなるのだろうか。ヌルは赤いマフラーをきゅっと首元を締め付けた。
「もし、怪物だと思うのでしたら、開けた瞬間に刺しても構いません!あなた方を待っている人はここから2日したところにいます!もし疑うのでしたら刺してください!疑わないのでしたらドアを自分から開いてください!」
そういうと、ドアが少し開いた。ドアのスキマから青年が顔をのぞかせた。青年は言う。
「本当に人間だったんだ。」
「中にはあなただけですか?」
「いえ、何人かいます。僕のパーティーメンバーたちです。どうぞ入ってください。」
ヌルは小屋に招かれた。中には青年を含めて四人いた。一人は体育座りをしていて、もう一人は毛布にくるまっていた。最後の一人は隅っこでうずくまっていた。ヌルはいう。
「ほかの三人はどうしたのですか?」
「3人は御覧の通りです。怖がっちゃって身動きが取れないのです。」
「獣を見たんですね?」
「はい。一人パーティーメンバーがやられてしまいまして。」
「なるほど。」
「あ、申し遅れました。ギャビンと言います。」
ギャビンは体育座りをしている人に寄り添っていう。
「ほら、アカネ、助けが来たんですよ?」
アカネは微動だにしなかった。次に毛布でうずくまっている人に
「ケイ、もう怖いものはいなくなりましたよ。」と優しくいう。しかし、毛布から分かるほど震えていた。最後に隅っこにいる人の肩をつかみ
「おい、リュウ!しっかりしろ!」と言い体をゆすった。
ギャビンは溜息をついた。そして、ギャビンはヌルにいう。
「すみません、来てくれたのにこんな有様で。」
「いえ。お辛いのは分かりますから。ギャビンさんは大丈夫なんですか?」
「あ、ああ。まあ、僕が半狂乱になったら誰も止めてくれないので。」
「すこし外で話できますか?」
ギャビンはうなずき二人は外に出た。そして、ヌルは聞いた。
「3人をどうします?」
「え?」
「3人をどう町に運ぶかです。」
「ああ。みんなあの状態ですし、負ぶっていくか、それとも無理やりにでも立たせるか。」
「次の小屋まではそれほど距離はないです。無理やりに連れていけば何とか次の小屋までは到着できるはずです。」
「ですが。あいつらはついていくかどうか。」
「一人負ぶって、肩を貸すのはできます。それなら日が暮れる前につくはずです。」
「そんなことできるんですか?」
「やるしかないです。一人は頼みます。」
そういうと、ヌルは毛布でケイを覆ったままおんぶした。そして、リュウを立たせて肩を貸した。ギャビンがアカネを負ぶった。
ヌルは自分がひいた松明に沿って歩いた。ケビンはヌルについて行った。道をひいたおかげで迷いなく進めた。ヌルは毛布がめくれないように慎重に歩いた。リュウもヌルを支えに歩いた。ギャビンも緊張と疲労の汗を流しながら歩いた。
ヌルとギャビンたちは日がくれるかどうかの時間になって小屋についた。ヌルはまずリュウをゆっくりと座らせた。そしてヌルはケイが外を見れないようにそっと下した。ヌルはギャビンに言う。
「僕が合図するまで小屋にはこないでください。聞きたければ、わけなら町についたときにいくらでも教えます。いいですね。」
ヌルはそういうと、小屋に入った。昨日と同様に遺体があった。ヌルは遺体を外に出した。遺体はギャビンたちに見えないように街道沿いの木々の間に隠した。ヌルは一人ひとりを隠しては
「ナミアミミョウレンゲイキョウ、ナミアミミョウレンゲイキョウ」
とお経のようなものを唱えた。お経を唱えるたびに、ふと町で埋めた人たちの顔を思い出した。思い出すたびに腸の奥底が思い出した人たちに触られるような感覚がした。
ヌルはギャビンたちを小屋に入れた。ギャビン以外の三人は前の小屋と同じところに自分の空間を作った。ヌルは3人が小屋に入るのを見てすぐに焚火をつけた。ヌルは焚火の前に座った。
ヌルは焚火を見ながら鼻を効かせて風の匂いに注意を向けた。火を見つめて、じっと夜が明けるのを待った。
少しすると後ろから少し風が来た。その風には獣の匂いはしなかった。ヌルは風を気にせずにじっと火を見ていた。すると、ヌルの隣に誰かが座った。ヌルは体をびくりと少し飛び上げた。隣にはギャビンがいた。ギャビンは
「すみません、驚かせて。」という。
「い、いえ。すこし驚いただけです。あなたは小屋にいなくてもいいんですか?」
「大丈夫です。もう3人は落ち着いたみたいですし。眠れないので、小康状態というところでしょう。」
「そう、ですか。」
「お礼を言っていませんでした。ありがとうございます。ここまで助けてくれて。」
「い、いえ。」
「あなたがいなければどうなっていたことか。三人はあの状態ですし、ここまで連れて来てくれたのはきっと神様が導いてくれたからです。」
「そ、そんなことはありません。第一、僕は神の使いでもありませんし。」
「いえ、あなたは神の使いです。ここに来る前にパーティーにあったのです。小屋だけ貸したのですが、あの三人の面倒は見れないと言われて立往生になりました。」
ヌルは埋めた人たちの顔がふとよぎった。
「その人たちに何かされました?」
「いえ。罵倒も何もありません。ただ、手を差し伸べてくれなかっただけです。」
「そ、そうですか。」
「ですが、あなたは違います。あなたは差し伸べてくれました。哀れな私たちを助けてくれました。感謝してもしきれません。」
その時、ヌルの頭に埋葬した人の顔が高速スライドショーのように廻った。この人たちは一体どういう人だったのか、どういう理由であそこで息絶えたのか。だれも知る由がない。こうして話していても、なにも出てこない。
「いえ、私は。何もできていないです。差し伸べたのだって、成り行きです。すみません、ここまで感謝されているのに。ですが、僕はあなたに尊敬されるような人ではありません。ごめんなさい。」
その時風が吹いた。獣の匂いがしみついていた。ヌルは言う。
「早く小屋に隠れてください。」
「え、あなたは。」
「早くしてください。」
ヌルは短剣を鞘から抜いた。風の方向を見た。また風が吹く。まだ嗅いだことのない匂いがした。
暗闇に目が見えた。大体120センチくらいのところに目があった。その目の奥から低い唸りと荒い息遣いが聞こえた。
次の瞬間ヌルにとびかかった。ヌルは体をひねり、避けた。焚火で全身が見える。黒い剛毛に覆われ、歯は人間の数倍の大きさがあり、前足の爪は獲物の肉をえぐり取るような鋭さがある。
熊だった。
熊はもう一度突進した。ヌルはまた交わす。熊はマフラーを爪でひっかけた。
ヌルは首を絞められて、地面に倒れた。ヌルのマフラーは左前足に踏みつけられた。熊は右前足でヌルの顔を狙う。ヌルは短剣を左前足に刺した。
熊は吠えた。ヌルはマフラーを左前足からどけた。ヌルは手で後ずさりをして熊のホールドを抜けた。
ヌルは立ち上がり、マフラーをもう一度締めた。
熊はもう一度突進した。ヌルは避けようとしなかった。ヌルは熊の鼻にパンチを繰り出した。熊は思わず立った。
ヌルは短剣を熊の腹に投げた。熊は倒れた。ヌルは倒れた熊から短剣を抜いた。そして馬乗りになり、熊の腹に短剣を刺した。何度も何度も内臓を取り出せるくらい深く、そして広い範囲を刺した。
熊は鳴いていた。刺すたびに鳴き、刺すたびに灰をまき散らし、刺すたびに力を失っていった。
力尽きるころには、ヌルの手はこわばっていた。終わって短剣を鞘に戻そうとしても手がこわばって手から短剣が離れなかった。ヌルは短剣を持った方の手を隠して小屋に向かった。
ヌルはギャビンにいう。
「もう、大丈夫です。」
小屋を見るとドアが少し開いていた。ギャビンはいう。
「み、見ていましたから。ヌルさん、剣を持った手見せてください。」
ギャビンは小屋を出た。そして、ヌルの手を見た。ヌルは言う。
「こわばっちゃって、手から剣が外れないんだ。」
ギャビンは手を見た。その手は赤と黒が混じった色をしていた。ギャビンはヌルの指を一本一本開いた。
「これってあの獣の血ですか?」
「そうですね。多分血です。」
その時ヌルのマフラーも外れた。焚火のせいでくっきりと噛まれた跡が見える。ギャビンは聞いた。
「その傷って、もしかして獣に噛まれたんですか?」
「う、うん。そうみたい。」
ギャビンの手が震え始めた。ヌルは
「ギャビン?」と聞いた。
「ご、ごめんなさい。」
その時、ギャビンは涙をこぼした。ヌルは
「だ、大丈夫?」と聞く。ギャビンは答える。
「い、いえ。聞くんですけど、あの獣にやられると死ぬんですよね?」
「そ、そのはずです。僕は例外ですが、生き返ることはまずありません。」
「死ぬ時ってどういう感じなのですか?やっぱり怖いんですか?」
「そ、それは。分かりません。一瞬でしたので。」
「そ、そうですよね。僕、ここで死ぬのが怖いんです。肉体だけが死ぬのはまだいいんです。僕の宗教では、死んだあとに最後の審判で天国にいけると言われています。でも、ここでは自分が死んでいるかどうかが分からないんです。生きている死んでいるか分からないまま時間が過ぎているのが。」
ギャビンはぽろぽろと大粒の涙を流した。ヌルはふとあの遺体たちを思い出した。この人同様に、怖かったのだろうと、その時の感情を想像してしまった。
夜が明けたころ、外から馬の蹄の音が聞こえた。その方向を見ると、朝川がいた。ヌルは言う。
「朝川さん、生存者を見つけました。」
「本当か?」
「ええ、小屋にいます。3人なんですけど一人か二人馬に乗せられますか?」
「ああ、構わんぞ。」
ヌルは支度をして小屋を跡にして、町に向かった。
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