春は秋の夕暮れ

鈴ノ木 鈴ノ子

はるはあきのゆうぐれ

 春の香りが辺りを包み、花々が風に揺れている。


 桜の花、菜の花、山梨の花、多くの花、雪のベールに包まれた季節のキャンパスに、やがて薄らとした色が、水滴が落ちたシミのように、あちらこちらに広がってゆくと、やがてそれは1つ1つの花となり、やがて麗らかな絵画となる様を思い浮かべた。


 花々は春の日差しのもとで咲き誇り、蜜蜂や昆虫が世話をするように忙しく飛び回っている。


 柔らかな薫風を浴びながら、ああ、春が来たのだ、と珈琲を持って土手に座った。


 音楽の流れているイヤホンを外し、春の音へと耳を傾ける。


 春音が耳へとコーラスのように心地よく響いた。


 ぼんやりとそれを楽しみ、飲み終える頃には稜線に陽が落ちようとしていた。


 残滓が春の景色を染めていく。


 ふと、気がついた。


 ああ、春の夕暮れには秋が漂っているのだと。


 日差しは金色であり、空気は澄んだように冷えている。


 これから育まれる実りが幻影のように花々の影に満ちてゆく。


 草木を揺らす音が聞こえてきて幻の秋風が吹いた。


 結実を予感させるものだった。

 

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春は秋の夕暮れ 鈴ノ木 鈴ノ子 @suzunokisuzunoki

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