2章・都市潜伏と出会い、そして爆発
1.山脈超え
■□■
ゲイン森林の洞窟拠点より発ってから、もう一日以上が経過した。
今はもう森林も抜け、その先にある夕日に照らされたキール山の険しい傾斜を進んでいる。
「……っ、ふぅ……」
防寒対策はしっかりしているものの(爺があの洞窟で、取ってきた綿とモンスターの皮を使って凄まじい手際で防寒具やリュックを自作してくれた。本当に彼の出際には勝てない)、移動の疲れはどうしようもない。
俺は【
だがその傾斜も、突然緩やかになってくる。
咄嗟に俯いていた顔を上げた先には、木々の合間より海と山々に囲まれた平野を一望出来る絶景が見えた。どうやら、山の尾根辺りにはたどり着いたようだな。
「……おお」
そして広大な平野には、大きな城塞都市や村のようなものが幾つも点在して見える。
これが、人間族の住むメクトル王国か。
平野中央付近に見える一際大きな街が、おそらくメクトル王国最大都市――王都グランリードだろう。
アリスブルムの王都レイグラッドにも引けを取らない規模だ。
この平野に降り立ったらどこにいこうか。
情報が一番集まっていそうなあの王都に行くか、出来るだけ人目を避けるために人口が少なめの地方都市の方に行くか、悩ましいところだな。
ともかくメクトル王国への旅路はあとこの山を下れば終わるのだが、今からすぐに出発しても確実に夜を越してしまう。夜は視界が悪くて危険である上に山間部では非常に寒くなるだろうし、どこかで野宿して朝を迎えたいところだな。
今からちょっとだけでも下山した辺りで、また洞窟でもあれば良いのだが。
そしてしばらく下山を始めると、夕日がぎりぎり沈み込みそうな時間に運良く洞穴らしきものを見つけられた。
「……よし、ここが俺の今日の宿だな」
これはありがたいと思いつつ、中を覗き込もうとして……複数の気配を感じ取る。
ばっと咄嗟に後退した一瞬遅れて、入口から大量の黒い影が溢れ出てきた。
影群の一体一体は、蝙蝠のモンスター「ドレインバット」だった。
「「キキー!!」」
「ちっ……ここはモンスターの住処なのか」
こいつらの攻撃力自体は大したことは無いのだが、噛まれると生命力を吸収されてしまう。何としてでも接近だけは阻まなければ。
……いいだろう、住処と食料のダブルゲットだ。
俺は剣を抜き、構える。ドレインバット達はまだ警戒していて近づいて来ない。結構臆病な性格をしているし、様子を見て相手の出方次第では即座に逃げるつもりなのだろう。
だったら、まずは油断させてやる。
俺は素人同然の動きで闇雲に剣を振り回す。当然、ドレインバット達には全然当たらない。
しばらくその間抜けな動きを見て、俺のことを「自分達でも倒せる奴」だとでも認識したのだろう。
「「キキー!!」」
奴らは一斉に雄叫びを上げると、耳障りな羽ばたき音とともに俺に飛びかかって来た。
――今だ。
「『エクスプロージョン』!」
向かってきたドレインバット達に向けて、複数同時に爆発魔法を発動。
「「キキー!?」」
いつも通り、直接のダメージはない。
だが多方向からの複数同時爆発によって、彼らはそれぞれがばらばらの方向へ吹き飛ばされる。そのうちの何匹かはお互いに衝突、もしくは近くの木や岩肌にぶつかり、そのまま地に落ちて気絶してしまった。
勝負ありだ。残りのドレインバット達は爆発音と俺の実力を見て怯え、一斉に遠くの暗闇へと逃げていった。
残ったのは、地面でぐったりとしている数匹のドレインバット。
「……たくさん捕まえはしたものの、こいつらって食べられるのか……?」
今更もっともな疑問も浮かぶが、まあそこらに生えてる野草とか香辛料と共に焼いておけばきっと上手いだろう。多分。
捕まえたドレインバット達はきっちりと絞めて洞穴入口付近に集め置いてから、ようやく火魔法で灯りをつけて奥へ入る。
中は……結構狭いな。俺が一人何とか寝転べる程度か。ゲイン森林の洞窟よりも随分と規模が小さいが、どうせ一晩泊まるだけなのでそこまで気にしなくてもいいか。
だが、この狭さでは中で焚き火は起こせないな。仕方がない、夜風は少し寒いが外で起こそう。雲の動きを見ても、雨が降ってくる様子は無さそうだ。
俺はゲイン森林の洞窟より持ってきていた火起こし鉱石「フレアタイト」を取り出す。持ち運んでいた時は勝手に燃えないように湿った布でくるんでいた。
そいつで集めた枯れ枝に火をつけると、周囲に灯りと熱をもたらしてくれる。
風味がつきそうな野草もぶち込み、ドレインバットの死骸に串を通したものを炙って数分、こんがりと焼けたそれに塩を振ってからかぶりついた。
……結構美味い。素材もいいのだろうが、長い森林生活で得たサバイバル技術にも磨きがかかっている。
明日からメクトルでどんな生活が待っているのかも分からんが、最悪野宿でもしばらくはやっていけるのかもな。
まあ、出来ればそろそろ建物の中で生活したいというのも本音だが。
たらふく食べたところでアフターティー。
焚き火で野草茶を沸かすが、今日使った野草はパーシル草。疲労回復とリラックス効果が有り、程よい渋みが茶として合う。
コップに注いだ湯気立つそれを一口飲むと、冷えていた身体の芯が温まるような感覚が有り、思わずほうっという息が漏れる。
今日は一日中歩きっぱなしでへとへとだったので、これは効くな。
そして何となく空を見上げると……。
「……ほう」
そこには、満天の星空があった。
館での生活やゲイン森林暮らしの際にも時折見えていたが、高所故かここでは一層綺麗に見える。後で焚き火も消して眺めるのも良いかもしれない。
星々を見ながら、パーシル茶の入ったコップを口に傾ける。館での暮らしも贅沢なものであったが……。
「……これもまた、風情だな」
そう笑いながら漏らし、俺は寝るまで星空のティータイムを楽しむのだった。
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