17.これからの方針

 □■□ 


 爺と再開して数日。


 彼は俺の日課である食料調達等を手伝ってくれた。

 ありがたい。ありがたいが……俺は一気に暇になった。


 勿論何もしていなかったわけではない。

 その間毎晩俺は彼と共に森の洞窟の中で夕食を共にしながら、今後のことを話し合っていた。


 まず、俺が得られた爆発魔法の吹き飛ばし力を、今後どう活躍させていくのか。


「ぼっちゃま。あなた様には『自動魔法迎撃』のスキルがございます。このスキルで、近づく者全てを吹き飛ばしてしまえばよろしいのでは?」


「ううん……勿論それも考えた、考えたとも。自動で相手を吹っ飛ばせるようになるだけでもどれだけ楽か。……だが俺の『自動魔法迎撃』スキルで発動させる爆発に限っては、技巧の能力は乗せられないらしいのだ」


「む……つまり、そのスキルは使っても魔法威力は0で吹き飛ばし力も0の、ほとんどただの幻覚のような爆発しか起こせないということでございますかな?」


「そういうことだ、『自動魔法迎撃』は使えない。技巧の力をのせた相手を吹き飛ばせる爆発魔法は、結局俺が手動で起こすしかないんだ」


「ううむ……やはりそう上手くはいきませぬ、か。申し訳ございませぬ、今まで短剣一本で戦ってきたこの爺めの愚考では、ろくな案を出せないようです」


「……短剣一本で戦ってこれてきた、お前が凄いのだがな」


「しかし……ふむ。この大陸のどこかには【魔剣士デュランダル】という珍しいクラスを持つ者がいると聞きます」


「【魔剣士デュランダル】? 聞いたことはあるような……」


「ええ。魔法と剣術のどちらにも優れ、魔法の力を纏った剣を振るう戦術を主流とする者です」


「ふむ、パーリーが使っていた『属性攻撃スキル』ともまた違うのだな?」


「はい、『属性攻撃スキル』はあくまでも炎や雷が付与される物理攻撃。これの取得には攻撃能力値を上げていくしかありませぬ。しかし【魔剣士デュランダル】の行使する一撃は、正真正銘の魔法と剣撃の融合なれば。そのような技を持つ者と知り合う機会があれば、あるいは……貴方様の爆発魔法と剣術を合わせた、良い戦闘方法を考案してくれるやもしれませぬぞ」


「……なるほど【魔剣士デュランダル】か。ありがとう、覚えておくよ。いつか出会うかもしれぬな」


 そして、これから俺達がどうするのかも話し合った。 


「爺、お前には頼みがある。お前はこのままアリスブルム王国に身を潜め、獣人達やヨーキャリオ家の動向を監視して欲しい」


「なるほど。その合間に【リア充】達の情報集めと、行方不明のインキャリオ家使用人達の捜索も……ですな?」


「ああ。追われている身ゆえ危険な仕事となるが、お前自身が獣人である上に隠密行動にも長けていることを考慮してだ。……ここからは、俺とは別行動を取ってもらう」


「かしこまりました。しかし、ぼっちゃまはどうなさるおつもりなのですか?」


「俺もこの森でのサバイバル生活はいよいよ終わりだ。旅支度が整い次第、数日後にでもここを発つ。考えたが、行先は――人間族の国・メクトルだな」


 俺は、広げた世界地図(爺が持ってた)にある、アリスブルム王国の隣にある国を指差しながらそう言った。


「……! そのような、未知の領域にございますか……? いけませぬ、そのような場所へ御身単独とは……!」


 俺の返答に身を乗り出して難色を示した爺を、俺は手で制す。


「まあ聞け。そもそも、どこまで俺達を狙うヨーキャリオ家の刺客の手が伸びているのかも分からない現状、この大陸で明確に安全だと言える場所は無いのだ。それに人間族である俺は、獣人達のいるこの国では目立ってしまう。……ならばいっそのこと、未知とは言え俺と同じ人間達の住むメクトル王国で姿を紛らわせていた方がむしろ安全だとは思わないか?」


「……! む、むぅ……確かに」


 最もらしい俺の言い分を聞いて、爺は言いよどんでしまう。

 未知故に危険も多いのだろうが、このように明確なメリットもある。俺も少しは戦闘出来るようになったし、多少のトラブルが起こっても一人で対処は出来るはずだ。


「俺もメクトル王国で【リア充】の情報収集、インキャリオ家の使用人捜索を行う。勿論、人間族の中でも発生してしまっているであろう【リア充】の討伐もだ。まだまだ技巧の能力値を伸ばし、強くならねばならん」


「なるほど……私はアリスブルムで、ぼっちゃまはメクトルで、それぞれ活動を行うということでございますか」


「ああ。二人で分担して広範囲で活動するほうが、インキャリオ家の使用人だって見つけやすいだろう。連絡手段も渡しておく。この『通信石』があれば、お互い声のみのやり取りがいつでも出来るだろう」


 俺は運よくローブのポケットに入れっぱなしになっていた石ころ状の魔法アイテム「通信石」を爺に渡す。

 そして俺ももう一つあるそれを持っておく。


 爺はそれをしぶしぶ受け取った後、考え込む間を置いてからようやく言葉を発した。


「……承知、致しました。もう二度と、私は貴方様の言葉を疑いませぬ。ぼっちゃまが可能だとお考えになったこの方針を尊重致します。しかし、御身が危険だとご判断すればすぐにでもこの石で私をお呼び下さい。一瞬……は難しくとも、数分で私はアリスブルムからメクトルへ渡り、ぼっちゃまの元へ馳せ参じましょうぞ」


「……いやお前、数分でも無理だろ」


 隣国とは言えアリスブルムからメクトルまでどれだけ距離があると思っているんだ。徒歩で数日だぞ。


 しかしこいつ、足も滅茶苦茶速いしあるいは……? いやそんな馬鹿な。


 まあとにかくこれで爺の了承も得られた。


 お互いの今後の活動方針もすり合わせられたし、いよいよ「出発の日」に備えて旅支度をするのみだ。

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