12.爆発魔法の力

 ガサガサという草木を掻き分ける音は一度だけではなく、しかもどんどん大きくなってくる。

 どうやら俺の元に何かが近づいてくるようだ。


「なんだこんな時に。また雑魚モンスターか【リア充】か?」


 俺は折角の試みを邪魔されたことに苛立ちを覚えつつ、そちらの方に振り向き……すぐに驚きへと変わる。


 その茂みから顔を出したのは、全長が俺の身長の二倍はある巨大な熊のモンスターである「ウルベアー」だった。

 

「ウヴァアアアアアアアアッ!!」


 そいつは俺の姿を認めるなり、巨大な爪のついた二本の太い腕を振り上げて威嚇してくる。


「……まじか。この森、こんな大型のモンスターもちゃんと出てくるのか。二か月はここにいたが全然知らなかったぞ」


 本当になんというタイミングで現れてくれたのか。


 その凶悪な見た目通り、このモンスターはゴブリンやコボルトとは比べ物にならないくらいに強い。

 以前の俺なら簡単に殺せただろうが、今の俺には相当手強い相手だ。


 それでも、勝てなければここで死ぬだけだ。


 俺はこの生活での初めての強敵を相手に、臆することなく剣を構えた。


「――かかってこいよ。今夜は熊鍋だ」


「ウヴォオオオオオオオオオッ!!」


 ウルベアーは、 その巨体に見合わない速度で俺に迫るなり、巨木のような前足をしならせて先端の巨大な爪を振り下ろしてくる。

 こんなものが直撃すれば身体は簡単にバラバラになるだろう。


 それでも俺の俊敏さには勝てない。

 バックステップでその攻撃を避けると、爪は俺の目の前の地面を大きく抉る。


 俺はその破壊力に怯むこともなく、攻撃を外した奴の腕にすかさず切りかかった。


「ウヴォオオオオオオオオオッ!!」


 雄叫びもお構い無しに俺は連続で切りつけて血を吹き出させるものの……この太すぎる腕に対して、切り口が浅すぎる。


 びっしりと生えた剛毛が刃の通りを悪くしていることもあり、俺の攻撃能力では全然ダメージを与えられているように思えない。


 案の定、地面から引きずり出した血まみれの巨腕は全く機能停止しておらず、あろうことかその腕を再び振り下ろして来た。


「……ちっ」


 俺はそれをまたバックステップで避ける。

 しかしウルベアーもそうされることは既に学習していたようで、今度はもう一つの腕をすぐに振り下ろして来る。


 やはり、俺の非力な物理攻撃の剣撃では大型のモンスターにろくなダメージが与えられないな。


 恐らく麻痺魔法「ビスター」も有効ではなさそうだ。

 このレベルのモンスターになってくると、今の元気な状態でそれを一、二回当てたところで麻痺してくれることはないだろう。


 ならば、もうやれることは一つだ。


【リア充】を爆発させ続けてきたこの一ヶ月の成果は、最初にあの巨岩に試そうと思っていたが……まずはお前で試してやる!


 死の爪が振り下ろされる直前、俺の見込みが外れればそのまま死に繋がる刹那。


 最早俺は緊張すらも感じる暇もなく、その魔法をウルベアーにかけた。


「爆発しろ、熊公!! 『エクスプロージョン』!!」


 ――爆発。


「ヴォ!?」


 視界を覆う爆風と、あらゆる外界の音を遮断する爆音。


 だが、ウルベアーが驚いた呻き声を発したのはそれらに対してだけではないのだろう。


 一か月前まではただ見た目だけが派手で全くの無害だった俺の爆発は……なんと、奴を大きく後方へ吹き飛ばしていた。


 ――技巧の能力によって強化される爆発魔法の要素とは、つまり「吹き飛ばし力」だ。


 本来の爆発魔法も魔法威力の高さに応じて相手を吹き飛ばせる力が上がるものだが、この技巧の能力が更にそれを伸ばしてくれる形となる。


 今ウルベアーを吹き飛ばしたのはこの上昇分のみの力となるだが……これだけ技巧能力値が上がっていると大したものだな。


 しかもこの技巧によって強化される要素は、便利なことに自分でさじ加減を調整出来る。


 この一ヶ月、【リア充】達相手には技巧の強化をのせない吹き飛ばし力も0の爆発を当ててきた。

 それで万が一攻撃判定を入れられて畏怖状態にされるのも嫌だったからな。


 だがようやく俺は自分の持てる技巧の能力全てをのせた爆発を起こし、その結果を見ることが出来た。


 大型のモンスターまでも吹き飛ばせるのであれば、正直期待以上だ。


「ヴォオオオオオオッ!?」


 ウルベアーは雄叫びを上げながら吹き飛ばされ、後ろにあった巨木の幹をへし折ってようやく止まる。しかし、見た目だけは凄いダメージをお見舞い出来たように見えるが……。


「ヴ、ヴルルッ!」


 少しだけふらつきながらも、やはりすぐに立ち上がるか。


 ようやく俺の爆発に強い吹き飛ばし力が付いたからといって、結局爆発魔法自体の威力が0であることに変わりはない。


 ああして吹き飛ばして、他のものにぶつけることで与えられるダメージは決して低くはないだろうが、それでもウルベアー相手には不十分な威力のようだ。


 ならば、何度でも爆発させて少しずつ消耗させるか?

 そう考えた俺は、もう一度ウルベアーを爆発。


「グオオオオオオオオオオッ!!」


 しかしウルベアーはまた吹き飛ばされながらも今度は空中で身体の向きを調整し、迫る木の幹を足で受ける。そのままばねのように足を突き伸ばし、木をへし折りながらほぼ逆方向にいる俺に向けて飛んできた。


「『エクスプロージョン』……!!」


 その突進力を爆発魔法の吹き飛ばし力で相殺。


「グギ、グオオオオオオッ!!」


 だが相殺したため今度はウルベアー本体を吹き飛ばせず、そのまま俺の目の前でまた腕を振り回して暴れ始めた。


 見た目に反して器用な奴め。食らった攻撃をちゃんと学習し、その対策を考えているようだ。


 ならばまた不意をつく別の手を――それも、その一手で決着が付くものを考え出さねば。


 俺は相手の攻撃を上手く避けながらも周囲を見渡して……。


「……よし」


 その「勝機」を見つけた。

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