11.魔法威力0の抜け道

 ……ちょっと待て。


 思い出せ。一か月前――まだ洞窟に逃げ込んだばかりの時だ。


 俺は寒くて火魔法で焚き火を点けようとしたが、魔法威力が0になった火はただの見掛け倒しで、焚き火となって燃えてくれることはなかった。

 そこまではいい。

 

 だが、てっきり本当にただの見掛け倒しだと思っていた俺の火魔法は、ほんのりとだが熱を発していたのだ。


 あの時はなぜ魔法の力が無くなったのに熱は発していたのかと疑問に思っていたものだが……そうか、この「技巧」の力だったのか。


 確かに魔法の能力値は0、魔法威力も0だ。

 火魔法だって、本来の威力通りの熱も発せないし物を燃やせない見掛け倒し。


 しかし、技巧の能力値までは0になってはいない。


 俺が火魔法を発動した際も、本来この能力によってプラスされる熱量だけがああして発されていたのだ。


 ……そうか、これは盲点だった。


 威力が消えようとも、今の俺の魔法は全くの無価値に成り下がってなどいなかったようだ。


【リア充】を倒すことでまだ伸びしろがあることが発覚した技巧能力値、それは一つの可能性となりうる。


 これによって強化されるものは、魔法の特定効果。

 魔法自体の威力は0であっても、そいつは確かに理を揺るがせる。


 火魔法であればより熱量が増え、氷魔法であればより温度が下がり、風魔法であればより風力を強く出来る。


 ――そして、「爆発魔法」ならば?


 ふと、振り返る。

 そこには俺の身長を優に超す大きな岩があった。


 こんなものでも以前の俺ならば、爆発魔法で簡単に木っ端微塵に出来ただろう。

 だが力を奪われた今の俺には、もうそんなことは出来ない。


 それを分かっていながらも、俺は巨岩に手をかざして魔法を唱える。


「『エクスプロージョン』!」


 爆音と爆風、煙が岩を中心にして周囲に撒き散らされる。


 見た目だけは派手だが、その実誰一人すら殺せない見掛け倒しの爆発。


 勿論岩は破壊されるどころか傷一つない。

 いっそこれは、ただの幻だと言っても過言では無い。


 だが、俺は見逃さなかった。


 ――その幻は、微かだが確かに岩を揺らしたのだ。


 □■□


 その日から、俺のサバイバル生活には明確な目的が出来た。


 朝から外で採取や狩猟等の日課を手早く済ませても、終わるのはだいたい昼過ぎになる。


 そこから夜遅くまで行うのは、森に迷い込んだ【リア充】狩りだ。


 どうやら森の外では、かなりの人々が【リア充】化しているようだ。

 その度に近隣の兵士や村人達はこの森へと【リア充】達を捨て置きにくる。


 それを、俺が爆発して洗脳から解放。


 奴らを狩れなかった日はほぼ無く、俺は毎日のように【リア充】達を爆発させることが出来た。


 果たしてこんなにも高頻度で奴らが森に来ていいものなのだろうかと疑問に思ったこともあったが、ある日この森に訪れた村人の老人達が言っていた言葉を盗み聞いて疑問は解決する。


「ここは……神秘の森じゃ! ここには妖精様が住んでおり、【リア充】となってしまった人々を浄化してくださる! ありがたや……ありがたや……! 皆の者、この森に住む妖精様への信仰を決して忘れるでないぞ!」


「「ははー!!」」


 ……なるほど、もう噂になっちまっているのか。


 それも「ここには何やら妖精が住んでいて、【リア充】を浄化してくれるからどんどん【リア充】を置いていこう」、という話になっていると。


 俺の身の安全を考えると歓迎できる話では無いが、俺の成長という面では本当にありがたい。


 とはいえ、こうなってくるともう長居は出来ないな。

 そろそろこの森でのサバイバル生活の終焉も見えてきた。


 ……それでも、もう少し。


 この状況は俺が倒したい【リア充】達の宝庫が目の前にあるようなものだ。

 出来うる限り彼らを爆発させ続ける。


 この森の噂が広まり、俺の正体を嗅ぎ回られるような状況に陥る、ぎりぎりまで。


 □■□


 俺がこの森での生活を初めてから、約二か月が経った。


 もう、これまでに俺が爆発させた【リア充】の数などとっくの前に想像がつかなくなっている。


 その日の朝、洞窟の中でベッド(手作りだ)から身を起こした俺は、一度深呼吸。


 体の調子は良い。これも――成長によるものなのだろうか。


「スキル発動、『能力情報開示』」


 俺はそう静かにスキルを唱え、現れたウインドウを見た。


――――――――――――――――――

テイドー・インキャリオ


クラス:【魔導士ウィザード


〈能力値〉

・攻撃:48

・魔法:<0>(呪いにより制約)

・防御:101

・魔防:1544

・技巧:309

・俊敏:837


〈クラススキル〉

『理魔法使用適性【極】[パッシブ]』

『理元素混合[パッシブ]』


〈フリースキル〉

『回復魔法使用適性【中】[パッシブ]』

『剣使用適性【小】[パッシブ]』

『魔力上昇(呪いにより無効)』

『魔法効果範囲拡大』

『自動魔法迎撃』

『能力情報開示』

『気配隠蔽』

『状態確認』

――――――――――――――――――


 ……素晴らしい。


 【リア充】達を爆発させまくった結果、今まではほぼ上がることのなかった技巧の能力値はたったの一ヶ月程度で急上昇し、とうとう300をオーバーしたか。


 合間にモンスターも剣で狩っていたためまた攻撃の能力もほんの少し上昇しているものの、技巧の成長とは雲泥の差だ。


 よし。これだけ伸びたのならば、そろそろ成果を試す価値はある。


 頃合いを待ちわびていた俺は、今日は日課の狩猟や採取すらも後回しだ。

 いつも以上に気合いを入れ外に出て森を進む。


 目指すは、一か月前に見つけた例の巨岩のある場所だ。


 期待しつつも緊張もしながら、記憶を頼りにしばらく進んだところに……あった。

 当然だが、その巨岩は一か月前とほとんど様相を変えることなくそこに佇んでいる。


 こいつに、俺の爆発魔法は何をもたらすのか。


「よし、早速試してみるか」


 そう呟きながら巨岩の近くまで向かおうとしたその時。


 少し遠くの森の奥から、草を揺らす物音が聞こえてきた。

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