7.世界改編
なんだ、この足元に広がるとんでもない規模の大魔法は?
こんな魔法、勿論俺は発動などしていない。
『――愛を以て世代を繋ぐ生命達よ、告げる』
「……!?」
その直後、突如頭の中に誰が喋っているわけでもないのに瞬時に次々と言葉が浮かび上がる。これは……この魔法の術者からのメッセージか?
『何を隠そう、余こそは――魔王「オウキ・セーユ」』
……魔王、だと? こいつが?
『此度もまた貴様らは【
言葉が流れている間にも辺りに広がる全容が到底見えない魔法陣からは、この俺すらも戦慄してしまう程の膨大な魔力が溢れ出続けている。
なんだこの魔法は? かけている対象は、この辺り一帯? 森全体? 国の全土?
――それとも、この世界そのものなのか?
『余は、貴様らの在り方を作り替える。なれば愛せよ。心を満たし、繁殖せよ。しかして繁栄の為ではなく、これは「剪定」と知れ。余は、その日が来るのを楽しみに眠り続けよう』
頭に流れていた言葉が終わる。同時に魔法陣も消え、時間の流れも正常に戻る。
それは時間にして刹那、だが何か取り返しのつかないことが起こったような……。
「「……うっ!?」」
直後に聞こえてきた呻き声。
それは、今まさにキスをしていたカップルから発せられたものだった。あの刹那の前までは楽しそうにしていたのに何やら様子がおかしい。
二人共キスをしていた口を離し、うずくまってしまう。
そして……なんだ? あいつらの身体から小さな「♡」の形をしたピンク色のエフェクトが次々と浮かび上がり始めている。
やがて二人は起き上がり、言葉を発した。
「「――リアー!!♡」」
「……は?」
急に何を意味不明な言語を叫んでいるんだあいつらは?
いや、おかしいのは言動だけではない。
まるで酔っ払っているかのように赤みを帯びた頬はにやけて釣り上がり、目の焦点は合わず、猫背姿勢でふらふらと何かを探すかのように彷徨い歩いている。とても正常な犬人の歩き方ではない。
さっきまであんなにイチャイチャしていた二人は、もうお互いに全く感心が無い様子だ。
あの、まだ出続けている「♡」のエフェクト……あれが何かの状態異常表示で、彼らはもうお互いが認識出来ていないほどに狂わされているのか?
不意に、おかしくなってしまった女の方と目が合ってしまった。
「……ッ!?」
まずい。とんでもない異常事態に驚く余り、俺は隠れることを疎かにして彼らを観察してしまっていた。
後悔して今から隠れようとしてももう遅い。彼女はこちらの姿を認めると一瞬だけピタリと動作を止めた後に……。
「リアー!!♡」
物凄い速さで、嬉しそうな声で、こちらに向けて両腕を広げながら突っ込んできた!
「はぁ!?」
殺意もない丸腰の突撃。全く予想も出来なかった動きに俺は動揺し、剣を構えようとしたものの間に合わなかった。
一歩も動けなかった俺は、まんまと女からの攻撃を……受けるのではなく、抱きつかれてしまう。
「リアー!♡♡♡」
「な……なに!? 貴様! 離れ……!!」
俺は真っ当な【
「くそ、離……れ……?」
……あれ? こんな状況だというのになんだか急に、胸がどきどきしてきたな。
考えてもみれば、女性に抱き着かれたことなど今まで無かった。チレーバも許嫁だったが勿論そんなことをしなかった。
獣人族とはいえ目の前の犬人も身体つきは人間族に近い生き物だ。その女の身体とは、こうも温かく柔らかいものなのか。
焦燥と共に、だが心が満たされていく。意識だって呆然と……。
「…………はっ!?」
まずい、何やら俺の身体からもこいつらと同じ変な「♡」のエフェクトが出始めていないか?
まさかこのままだと、俺もこいつらのようにおかしくなってしまうのか!?
本気でまずいと思った俺は咄嗟に、その魔法を自分に向けて唱えていた。
「『イノセンス・エクスプロージョン』!!」
――爆発。
「リアー!?♡」
俺だけではない、抱き着いていた女も爆風に巻き込まれ、離れる。
「はぁ、はぁ……!」
息を整える。変な高揚感はもう無い。
尻もちを付いた自分の身体を見てみると、もうあの「♡」のエフェクトが消えていた。
ただの状態異常強制解除魔法に成り下がった俺の「イノセンス・エクスプロージョン」が、どうやらまた役に立ったようだな。何とかあいつらのようにおかしくならずには済んだようだ。
そして目の前で倒れている女も見ると、彼女からもあの「♡」のエフェクトが消えている。しかも、意識を失っているようだった。正気に戻ったのか?
まだ気は抜けない、すぐに男の方も見る。
こちらは少し遠くでまだ「♡」を出しながらふらふらと歩いているが、女の方とはまるで違い俺に興味を全く示してこない。
警戒はしながらも、俺は試しにそのスキルを使った。
「スキル発動、『状態確認』」
その効果としては名前通り、相手が現在どんな状態異常にかかっているかを確かめるものだ。
視界は灰色になり、男だけがピンク色に光っている。状態異常にかかっている者がこうして着色されて見え、彼の上にはこう表示されていた。
『リアート因子・洗脳可能水準充分量突破』
『洗脳(自動徘徊・異性認識・異性誘惑)』
『オウキ・セーユの加護(攻撃行動不可)』
なんかよく分からないものが色々かかっている。そして俺が今爆発した女もこのスキルで見ても、もうその表示が出ない。
どうやら俺の爆発魔法ならばあの状態異常を解除出来るようだ。ならば話は早い。
「『イノセンス・エクスプロージョン』!!」
「リアー!?♡」
俺は、無防備だった男の方も爆発させた。
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