5.見知らぬ気配
「ギギー!!」
先制で襲い掛かって来たのはゴブリンの方だった。
対する俺のやることは、悲しきかな普段と変りなくへっぽこな剣技での迎撃だ。
構えた剣で振り下ろされるゴブリンの棍棒をガード。そのまま素早く背後に回り込み、背中を切りつける。
「グゴッ!?」
だが直前にゴブリンが前に逃げたために傷は浅い。まだ全然ぴんぴんしている相手は再び棍棒を振り下ろしてくる。
やっぱり、剣だけで倒そうとすると少し苦戦してしまうな。出来る限り攻撃能力値を伸ばしたかったから物理攻撃のみで倒したかったが……仕方が無い。
「『ビスター』!」
「ギッ……」
麻痺をかけてゴブリンを痺れさせる。この魔法を使ってしまえば後は楽勝。
動けなくなった奴の心臓を、俺は剣で刺し貫いた。
■□■
動かなくなったゴブリンを見て、俺はため息を付く。やはり戦闘能力の向上という点においてだけは全然順調とは言えない。
残念ながらこの「ビスター」という麻痺状態付与魔法も万能ではない。
手をかざした対象を痺れさせるのだが、この魔法自体の発動がそんなに早くは無いのだ。
なので俊敏性の高い相手は痺れさせる前にその手の方向から逃げて、簡単に躱してしまう。
しかも魔防能力値の高い上級モンスター等が相手になってくると、こういった状態異常の効き自体が悪くなってくるため何度も当てる必要も出てくる。
つまり今のゴブリンは雑魚モンスターだからこそ速攻で麻痺させて殺すという戦術が許されていたが、これより強い相手となって来るとそれも難しくなる。
どうしてもそんな相手にも「ビスター」を当てたければ、別の手段で弱らせて動けなくさせる必要があるというわけだ。見事に手段と目的が裏返ってしまっているんだよなこれ。
なので結局この魔法もそのうち役に立たなくなると考え、今は攻撃能力値と剣の腕前を少しでも上げるためにも雑魚モンスターを物理攻撃でちまちまと倒し続けるしか無さそうだが……。
「スキル発動、『能力情報開示』」
俺は、スキルを使って自身の現状の能力値を見た。
――――――――――――――――――
テイドー・インキャリオ
クラス:【
〈能力値〉
・体力:678
・攻撃:46
・魔法:<0>(魔法能力値ゼロの呪い発動中)
・防御:101
・魔防:1544
・技巧:79
・俊敏:837
〈クラススキル〉
『理魔法使用適性【極】[パッシブ]』
『理元素混合[パッシブ]』
〈フリースキル〉
『回復魔法使用適性【中】[パッシブ]』
『剣使用適性【小】[パッシブ]』
『魔力上昇(呪いにより無効)』
『魔法効果範囲拡大』
『自動魔法迎撃』
『能力情報開示』
『気配隠蔽』
『状態確認』
――――――――――――――――――
「はあ……やはり全然駄目だな」
久しぶりにこれを見て俺は落胆する。
魔法の能力値が呪いのせいで相変わらず0だという理由もあるが……それ以外の能力値も全然上がってはいないからというものもある。
能力値は上がれば上がるほど、どんどん上がりにくくなってしまうという特徴がある。
今までは魔法ばかり使っていたせいでまだ全然上げられてはいない攻撃以外の能力値は、もうこんな森の雑魚モンスター相手では全く上げられないのだろう。
そしてこの一か月、剣を使った物理攻撃で必死にゴブリンやコボルト等を狩りまることで大きく上げるつもりだった、本命の攻撃能力値の成長も酷い有様だった。
前回見た時が44で今が46と、結果として2しか上がっていないとはな。
これも【
しかもこの攻撃能力値だって仮にここから必死に大きく上げていっても、いつかは他の能力値同様更に上げにくくなるということじゃないか。これからの途方も無い作業を思い軽く憂鬱になりそうだ。
折角ゴブリンに勝ったのに落ち込んでいるのもなんだか嫌だな。ともあれ目の前にある倒したての死体を回収しようとして……。
ガサッと。
遠くの方で、草木を揺らす物音が聞こえた。
「……!」
瞬時に剣を抜く。
また俺とは違う生物の気配。新手の音は恐らく二体分、しかしいつもの雑魚モンスター達が発する音とは少し質が違うような気がする。
どうにも、今まで遭遇して来たものとはまた違う存在がやって来たようだ。
とんでもなく強いモンスターだという可能性もあり危険もある。
すぐに逃げるという選択肢もあるが……俺の住処である洞窟近くまで来られても困る。
無害な存在という可能性も勿論あるし、安心感を得るためにもやはり姿だけでも拝んではおきたい。
「スキル発動、『気配遮断』」
そう俺は静かに唱える。これは自身の存在を極限まで分かりにくくするスキルだ。
「存在遮断」というスキルのように完全に気配を消せるという程ではないが、見られてさえいなければこちらに気付かれることはほぼ無い。
「とある人物」に教わったスキルではあるが、【
否、魔法を使えなくなった今でもこうして有用なスキルだ。
そして剣を構えたまましゃがみ込み、草木で身を隠しながら慎重に音のした方へ近づいて行く。
……サバイバル生活は慣れても、未知との遭遇はやはり慣れるものでは無いな。
剣の柄を握る手は微かに震え、汗ばんでいる。それでも俺は息を殺し、限りなく音を消しながら進む。
やがて、俺は気が付かれることもなく音の正体の元へとたどり着いた。
「…………」
草の隙間より、俺はそいつらの様子を伺う。そこに居たのは、大きな岩に並んで座り込む二人組の犬顔――犬人の獣人族だった。
今度こそコボルトではない。衣服を纏い和やかに談笑しているそいつらは、間違いなく俺が嫌と言うほどみてきた種族。
一人は黒犬の男、もう一人は白犬の女だ。
見覚えは無い。ヨーキャリオ家が俺を殺すために使わせた追っ手かとも勘ぐったが、それにしては殺気が薄いように思える。
「……なんだ、こいつらは」
あまり強そうにも見えないし、とりあえず俺は物陰から彼らの会話の盗み聞くことにした。
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