4.なんやかんや適応中
■□■
森の中に身を潜める生活を始めて約一ヶ月。
この逃亡サバイバル生活では、相変わらず日々過酷な毎日を……。
「……ふぁ、朝か。朝飯食べよう」
……と思いきや、俺はなんやかんや適応して慣れてきてしまった。
洞窟をねぐらにして毎日採取と狩猟をする生活には変わりないものの、その生活水準は日々向上している。
やはりありがたいのは、洞窟内で簡単に発掘できると分かった火を起こせる魔法の鉱石「フレアタイト」の存在だろう。これのおかげで簡単に焚き火を作れ、様々なことが出来るのだ。
温まる、濡れた服を乾かす、風呂を沸かす、そして食料の調理……等、火の一つだけでも色々やれることは多く俺の生活水準はかなり快適に保たれている。
たまたま見つけた洞窟だが、火を起こすための手段に困らず、別の生き物もいないので静かとかなりいい物件だ。
ここへ更に「魔除けの結界」という魔法の結界まで張ってモンスターを立ち寄れなくしたので、非常に安全な場所にもなった。
そして日々の食料や資材調達には、とにかく剣が思っていたよりも役に立つ。
遭遇したモンスターと戦って身を守りつつ肉を確保出来ることは勿論だが、木材を切る、皮を削ぐ、目印を刻む、野草や木の実を採取する、食材を調理する等その他の用途も多岐に渡る。
持ち物も限られたサバイバル生活において、刃物とは一本あるだけでこうも頼もしいとはな。
野草や木の実の採取自体も順調。
今のところ植物への知識があるおかげで、一回も毒の木の実や葉を食う羽目にはなっていない。
モンスター狩猟自体も順調……苦戦はするが順調だ。
ここら辺は今のところどうやら低級のモンスターしか出ないようで助かっている。
コボルトやゴブリンの肉は生臭く固いのであまり美味しくは無いが、焼けば不味いという程でもない。そしてたまにいる草食系モンスターのレッグバードやトツイノシシの肉に至っては世間一般でも料理に使われるレベルなので、焼いて塩を振るだけでもご馳走になってくれた。
生きていく上で結構重要となる衛生面もかなり保たれている。自分の汗やモンスターの血で汚れた身体は近くを流れる渓流の水で洗えるし、排泄なら洞窟の外でいくらでも行える。
しかも衣類まで何着か自作していた。
それもサバイバルにありがちなただ大きな葉を体に巻き付けるだけという野蛮なものではない。剣で削いだ植物の繊維を編んで糸にし、更に糸を編んで布にするという結構本格的な衣服だ。
今やもう元々着ていたご自慢のローブは、森での採取や散策では枝に引っかかって邪魔にしかならなかったため脱ぎ畳み、この自作衣類を着ている。
勿論普通に街で売られているような衣類のクオリティと比べると、見た目でも機能性でも負けるし防御力だって皆無に等しいが、人目を気にせずひっそりと生活を送る分には全然問題はない。我ながら大した手の器用さだ。
そんなわけで俺は、一通りの衣食住を揃えた生活を送れるようになった。
「さて、朝のティータイムの時間としよう」
干し肉とスープを食べた朝食後。
焚き火で照らされてほんのり明るい洞窟の中、俺は木材で自作した椅子にギシッという音を立てて優雅に座る。
手に持つのは、これも石を削って自作した取っ手付きのカップ。中に湯気を立てて入っている液体は、採取した植物の葉を煎じた茶だ。
それを一口、啜る音を全く立てずに上品に飲んだ。
「ふっ、美味い――って、そうでは無いわ!!」
くつろいでいた俺は、はっとなって急に怒鳴りながら立ち上がっていた。いやなにをしているんだ俺。
「我ながら現状への適応力に惚れ惚れするが、ただ生活を良くしてどうする!? 復讐だ! なんとかしてパーリーよりも強くなる手段を見つけ、ヨーキャリオ家に復讐するのだろうテイドー!!」
……結構サバイバル生活が快適になってしまっていて、気が緩んでいたのも確かだ。
俺は自分に怒りながら、今日も採取狩猟兼何か情報や現状の打開策を見つけるためにもすぐに支度をして洞窟の出口へ向かう。
ちなみに出口には木製の扉も付けた。
重くてびくともしないという訳では無いが、開けられたり破壊されたりした時の音が大きいため俺はすぐにこの洞窟の侵入者に気付ける。
だがもっと丈夫なものにして、何なら鍵でもかけられる仕組みを考えるのもありかもしれない。誰も入って来られないと認識出来る閉鎖空間の方が精神的にも落ち着けるしな。
……って、だからそんなことはどうでもいいんだよ馬鹿。
こんな感じに
今日も外はよく晴れていた。
「野草と木の実採取に、そろそろ肉も無くなるからモンスターも狩りたい。あと洞窟に汲み置きしてた水も少なかったな。後で渓流に水汲みも……」
とは言え、いざ意気込んで外に出てもやれることはいつもと余り変わらない。いくらこのサバイバル生活に特化した当主でも、今の効率も悪い自給自足だとそれだけで結構な時間を喰う。
それでもさっさと日課を終わらせ、少しでも今後どうするか思考する時間を増やそうと考えながら森を歩きはじめた。
■□■
目に付く食べられる木の実や野草を採取しながらしばらく歩いていると、都合の良いことに欲しかった肉……モンスターが目の前に一体現れた。
緑色の小鬼、ゴブリンだ。
「ギギッ!?」
別に槍を持ったゴブリンソルジャーでも、剣を持ったゴブリンナイトと言った少しだけ厄介な中級モンスターではなく、ただ棍棒を持つ最もオーソドックスで弱い普通のゴブリンだ。
何やらちょっと慌てているように見えたが、奴も俺の姿を確認した途端に獲物の棍棒を構える。
「……今日はお前かよ。あんまり美味くないんだがなお前の肉」
ゴブリンの肉は硬くて臭い。モンスターも狩猟したいとは思っていたが、今日はハズレを引いてしまったようだ。
それでも貴重な肉ではあるし、火で調理すれば多少味は誤魔化せるはずだ。逃がすという選択肢は無い。
俺も剣を構え、ゴブリンとの戦闘を開始した。
――今日もまた、結局いつもと変わらない一日になるのだろうなと思いながら。
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