4.最強からの転落
告発。
パーリーからのその言葉を聞き、歓声に沸き立っていた観客達が今度は「なんだなんだ」とざわめきの声を上げる。そんな喧騒に負けることなく、パーリーは声を張り上げて宣った。
「非常に残念なことですが! 今まで勇者パーティの仲間候補として期待されてきたこのテイドー・インキャリオは、我々を騙してきました! 彼は最強などではありません! 彼は……今までの決闘で僕にわざと負けるように命じ、その実力を偽ってきました! 今皆様がご覧になったものこそが、彼の本当の実力なのです! 先程ご覧になったテイドーの能力値も、彼の魔法による捏造なのでしょう!」
「は……!?」
全く身に覚えのない罪の告発に俺は更に困惑する。
どうやらパーリーは今の戦いを、俺が純粋な力比べで負けたと言いたいようだ。どう考えても滅茶苦茶な話だが、観客はもうしんと静まり返っているばかりで誰もその言葉を否定する者はいない。
確かに俺がこれまで戦ってきた相手は父上やパーリーがほとんどだ。噂や肩書きはやたら広まってしまったものの、実際の俺の実力は現在パーリー含めたごく一部の者しか知らないのだ。
俺の味方となるインキャリオ家の使用人達も……今このコロシアムには一人もいない。コロシアム観客席に入りきらない貴族達や付き人、運び屋といった関係者をもてなすために、皆インキャリオの館の方にいる。
テイドー・インキャリオは嘘付きの弱者だった。
実際俺がこうして負けている今、この嘘は誠になる状況が整ってしまっている。
「貴様、ふざけ……!」
パーリーは、俺の非難の声を遮って更に大きな声を上げた。
「勿論今日のこの試合もわざと負けるよう迫られましたが……今日は『犬人最強』を決めるという本当に大事な日です。友人テイドーを裏切ることに心を痛めましたが、それでもようやく今日こそはその罪を告発する決意を致しました。――そう、この僕の勝利という揺るがぬ事実を以て!」
パーリーはまるで悲劇の主人公のように悲壮と苦悩の声色で観客達に語り掛ける。
この嘘っぱちの演説を聞き届けた観衆達の静寂は、やがて解ける。次第にそれはぱちぱちと小さな拍手に変わり、やがてパーリーに惜しみない拍手と歓声を送り始める。
そして俺には、非難の声を。
「な……なんて奴だ、テイドー・インキャリオ! そうだ、道理で強すぎる噂しか聞かないと思った!」
「やはりそうだと思っていたとも! お前はずっとパーリー・ヨーキャリオ様の優しさに付け込み、そして我々を騙し続けていたのか!」
「お前を由緒正しきインキャリオ家後継者に選んだお父上にも恥ずかしいとは思わないのか!? だから人間など養子に取るなと言っていたのに! ああ、インキャリオ家も堕ちたものだ! ならばもう、さっさとヨーキャリオ家と統合されてしまえばいい!」
「この試合の結果もはっきりと物語っている! やはり人間などに我々の最強を務めさせるわけにはいかない! どう考えてもパーリー様こそが、『犬人最強』に相応しい! 彼こそがいつか勇者パーティの一員となるお方だ!」
ただでさえ俺のことを良く思っていなかった獣人貴族諸侯からの罵詈雑言。声はどんどん大きくなり、とうとう観客全員が俺を罵る。
咄嗟に視界の端で見えたものは、観客席で何故かヨーキャリオの使用人達に口を塞がれてもがいている先程のエルフ女性、シーラだった。
彼女は歓声を浴びせられているパーリーを指差し、必死に何かを訴えようとしているが声になっていない。
「……ッ! ……ッ! …………ッ!!」
彼女も俺を罵ろうとしているのだろうか。だが、なぜヨーキャリオの使用人達に口を塞がれているのか?
しかし、そんなものすら今の俺には気にしていられる余裕はない。
全く心当たりのない濡れ衣を着せられたことへの怒りや悲しみの感情すらも今は上手く湧いてくれない。
何が起こっているのか分からない上に確かに負けたという事実から、俺はまるで胸の中にずんと重いものがのしかかっているかのような息苦しさに苛まれる。身体自身も重くて動かない。
そうして俺の口からは反論の言葉すらも出ず、その場ではただ黙って呆然とすることしか出来なかった。
■□■
「なにが……一体何がどうなっているんだ!? 何故俺の魔法が突然奴に効かなくなった!?」
試合も終わり、コロシアムの控え室。時間を置いてからようやく悔しさと怒り、そして困惑が一気に込み上げ、俺は一人で壁に拳を打ち付け叫ぶ。
そんな俺の所に、あのパーリーがやって来た。……にやにやと笑って。
「……やあ、今日は調子が悪そうじゃないか【
さっきのパーリーのまるで仕組んでいたかのような告発、そして今のこの嫌な笑み。
どう考えても俺が負けたのは、パーリーが事前に仕掛けたとしか思えない不正行為――彼が使えるはずもないあの「呪い」が原因だろう。
俺は怒りのままに、パーリーに掴みかかった。
「お前……俺に何をした!?」
「ははっ、お前の目で見たまんまだ。自分の能力値を覗いてみろよ。お前の『能力情報開示』のスキルで自身のものだけは見られるんだろう?」
パーリーの言う通り、俺は自身の能力値のみならばいつでも見られる「能力情報開示」というスキルなら持っている。先程神父が使っていた他者の能力値まで見られる「能力情報共有開示」というスキルの劣化ではあるものの、自身の成長度合いを見られるだけでも非常に重宝している。
「なんだと……『能力情報開示』!」
彼の言葉に従い、俺はこのスキルで能力値を見て驚愕した。
――――――――――――――――――
テイドー・インキャリオ
クラス:【魔導士(ウィザード)】
〈能力値〉
・体力:678
・攻撃:44
・魔法:<0>(魔法能力値0の呪い発動中)
・防御:101
・魔防:1544
・技巧:79
・俊敏:837
〈クラススキル〉
『理魔法使用適性【極】[パッシブ]』
『理元素混合[パッシブ]』
〈フリースキル〉
『回復魔法使用適性【中】[パッシブ]』
『剣使用適性【小】[パッシブ]』
『魔力上昇(呪いにより無効)』
『魔法効果範囲拡大』
『自動魔法迎撃』
『能力情報開示』
『気配隠蔽』
『状態確認』
――――――――――――――――――
「な、に……!?」
魔法職の命とも言える、俺の能力値の中でも一番高かった――「魔法」の能力値が何故か0になっている。
当然この値が高くなければ魔法の威力は出ない。これが先程パーリーにダメージを与えられなくなっていた原因なのだと分かり、愕然とする。
その様子を、パーリーは心底愉快そうに笑いながら見ていた。
「どうだテイドー! 呪いの力でお前の魔法能力値を0にさせてもらった! これから絶対に上がることもない、永久の0だ! これでもうお前は一生魔法では相手にダメージを与えられない! コボルトやゴブリンも、そこらの雑魚モンスターの一匹すらもお前は倒せない! ――お前は今日、『最強』から『最弱』へと転落したんだよ!! ざまあみろ、ははははははっ!!」
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