3.不正行為

「な……ぐがああああっ!?」


「自動魔法迎撃」。俺がそのスキルを発動した直後、詠唱してすらいないのにパーリーのいる場所が爆発した。


 このスキルは名前通り、相手が俺にある程度の範囲へ近づくだけで俺の意思とは関係なく対象に爆発魔法が発動して撃退してしまうというものだ。


 これが大分卑怯臭いスキルであり、実質俺は何もしなくても爆風のバリアに守られているということになる。そんなわけでパーリーは全く俺に近づくこともスキルを使うことも出来ず、逆に反撃で自動発動する爆発魔法で何度もぶっ飛ばされ、弱っていくだけだ。


 そこからはもう、まともな勝負にもなっていなかった。


「こ、この……この……くそ爆発がああああああっ!」


 観客まで巻き込むわけにはいかないので、爆発範囲の狭い低威力の爆発魔法しか使えない。そうなると流石に一、二回魔法を当てたところで奴を倒せはしない。


 それでも自動的に発動する爆発魔法が何度もかすり、パーリーはもうぼろぼろで完全に頭に血が上っている。そのくせ動きは随分と鈍っている。


 ……ふむ、頃合いだな。俺には特に試合を長引かせて観客を楽しませようという気は毛頭ない。さっさと「いつものやり方」で決着を付けようか。


「『ビスタ―』!」


「がっ……!?」


 俺は既にふらふらになっているパーリーを、まずは水、雷の二元素を混ぜ合わせた麻痺状態異常付与魔法「ビスター」で麻痺状態にして動きを封じてしまった。


 ……そして、次こそが本命の一撃だ。


「――『イノセンス・エクスプロージョン』!」


 先程まで使っていた爆発魔法とは少し違う詠唱。

 しかしぱっと見は今まで俺が発動していた爆発魔法とさほど爆発の威力が変化しているようには見えないだろう。

 だがそれは大きな間違いだ。

 

 この魔法の効果とは――「状態異常にかかった相手に対して特効で大ダメージを与える代わりに、その状態異常を強制解除する」という変わったものなのだから。


 しかしこの条件が適用された場合の威力は絶大で、さっきまでの普通の爆発魔法のそれを遥かに凌駕する。


「ギ、ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 そんなものをモロに喰らったパーリーは、今までで一番大きな絶叫を上げていた。


 ■□■


「「「…………」」」


 俺を散々馬鹿にしていた観客達は、もうただ息を呑んでこの試合を見守っていた。

 

 俺は健在。そして俺のコンボをもろに喰らったパーリーは、もう虫の息だ。


「ぜえ、ぜえ……畜、生……近づくだけで爆発とか、相変わらず意味わかんねえんだよ……。そっから弱らせて……例の『特効ダメージ爆発』……か。……ああ、本当に強すぎるなぁ……テイドーは……」


「はっ! 見ていて可哀そうになるよ、パーリー。死ななかっただけ褒めてやる。……どうだ。これで少しはお前がしている弱い者いじめの被害者の気分を味わえたか?」


 そう馬鹿にしつつも、俺は少し感心していた。パーリーはこのコンボを喰らっても完全な戦闘不能にはなっていなかったからだ。


 ああ、さっきもウインドウに表示されていたスキル『即死回避(一度のみ)』が発動したのか。どうやら彼の新スキルのようで、確実に一撃でやられてしまう攻撃を体力をギリギリ残して耐えるというものだ。


 だがどちらにせよ次の攻撃でパーリーは確実にやられる。もう避ける体力はないだろうし、回復のポーションを使わせる隙だって与えはしない。


「終われよ、女好きのクソ野郎。お前に勇者パーティの一員など相応しくない」


 そうして俺は、今度こそとどめの爆発魔法を……。


 しかしパーリーは、心底愉快そうに笑っていた。


「……ヒッ、ヒヒヒヒッ。なんてな。時間稼ぎは充分やった。――終わるのはお前だ、テイドー」


 直後、俺の周囲に怪しげな紫色の魔法陣が現れていた。


「……っ!?」


 咄嗟にパーリーから距離を取るが、その魔法陣は俺からぴったりくっついて離れることはない。


 これはただの魔法ではない。この禍々しき気配は……「呪い」だと!?


「な、に……!?」


 油断したことへの悔みよりも、そんなものをただの【剣使いスラッシャー】でしかないパーリーが使ってきたことへの驚きが勝る。


 どうやらこの魔法陣はパーリーが発動しているものではなく、何故かさっきチレーバから貰ったお守りから発生しているようだ。


「くそ、貴様俺に何をした!? 『エクスプロージョン』!!」


 この「呪い」がとても良くないものであると本能で感じた俺は、すぐにとどめの爆発をパーリーに放つ。


 だが、彼は全くダメージを受けなかった。


 さっきまでのように吹き飛ばされもせず、爆発が直撃したはずのパーリーの顔は苦痛に歪むどころかにやりと不敵に笑うのみだ。


「な……!?」


 俺は何が起こっているのか分からなくて困惑している隙に、パーリーに回復ポーションを使われてしまう。そしてすっかり元気になった彼は再び俺に接近。


「形勢逆転だな、陰険な人間風情がぁ!!」


「……ッ!」


 今度は俺が焦りながら何度も爆発魔法で応戦するものの、やはり彼に全くダメージは無い。とうとう致命的なまでに距離を詰められ……。


「『ライジング・ブレード』!」


 パーリーは属性攻撃スキルを使う。振るわれた刀身は何とか避けられても、周囲に飛び散った雷までは避けきれずに直撃。


「ぐ、ぐああっ!!」


「ざまぁみろだ! まだまだぁ!! 『一閃』! 『スピニング・スラッシュ』!! 死ね、死ね、死ねええええええっ!! ひゃははははははっ!!」


 怯まされた俺はその後も、連続で彼の攻撃が炸裂。激痛に苛まれるも、もう俺には対抗する術もなく。


 ――そして俺は、あっさりとパーリーに負けてしまった。


 ■□■


『しょ、勝負あり! まさに英雄! 最後まで勇敢に戦い、まさかの逆転勝利!! 勝者はなんと……我らが【牙狼雷刃がろうらいじん】、パーリー・ヨーキャリオ様だああああっ!』


「「おおおおおおおおおおっ!!」」


 歓声に沸き立つコロシアム。


 敗北し、その場に膝をついてしまった俺の前に立つパーリー。


 彼は俺をにたりと笑って一瞥した後、今度は観客を仰ぎ見て突如こう宣った。


「――ありがとう皆様! そしてここに、僕は一つの告発を致しましょう! この大噓つき、テイドーについて!」

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