2.歴代最強の魔導士<ウィザード>

 ■□■


 いよいよ歓声に包まれるコロシアムへ入場し、対戦をする両者は合間見える。


 ローブをなびかせる俺は真顔で、剣を構えた狼男パーリーは既に焦った顔で。


「悪いがこの俺が、『最強』の称号をもらうぞパーリー。仲の良い女の子達はこの試合に呼んだか? 俺以外の奴をぼこぼこにして、少しは強くなったか? どちらにせよ関係ない、お前の無様な姿をここにさらしてやるよ」


「くそっくそっ! 負けてたまるか……俺は勇者パーティの仲間になって、もっと女からちやほやされるんだ!」


 このまま試合開始――ではなく、その前にまた司会のアナウンスが流れた。


「では対戦前に、両者の能力値を開示していただきましょう! 神父様、よろしくお願いします!」


 う、能力値開示……まずそう来るか。その方が確かに試合が盛り上げられるという魂胆があるのろうだが、見世物にされるのは少し嫌だな。


 俺達は種族を問わず生まれつきそれぞれの戦闘の職クラスというものが決まっていて、さらに強さを数値化した能力値というものまで備わっている。


 普段このような情報を目にすることは出来ないが、例えば教会の神父がもつ能力スキルによってこれらの情報だけではなく、持っているスキル等も見ることが出来るのだ。


「分かりました。ではまずパーリー様から。――『能力情報共有開示』」


 司会の近くにいた犬人の神父はそう答えた直後、コロシアムにいる全ての者が見られるくらいの巨大なウインドウがその頭上に浮かび上がり、そこにはこのように書かれていた。


――――――――――――――――――

パーリー・ヨーキャリオ


クラス:【剣使いスラッシャー


〈能力値〉

・体力:523

・攻撃:916

・魔法:32

・防御:366

・魔防:73

・技巧:98

・俊敏:563


〈クラススキル〉

『剣使用適性【極】[パッシブ]』


〈フリースキル〉

『攻撃上昇』

『防御上昇』

『即死回避(一度のみ)』

『一閃』

『スピニング・スラッシュ』

『ライジング・ブレード』

――――――――――――――――――


 おおー! という歓声が巻き起こる。


 一番高い攻撃の値は900オーバー。近接クラスに必要な他の能力値も軒並み高水準で、【剣使いスラッシャー】にしては最高峰レベルだと言えるだろう。


「ど……どうだテイドー! お前と戦うのは一年ぶりだなぁ! その間に、俺だって強くなったんだよ! これならお前にも負けないはずだ、ははははっ!」


 パーリーは自信ありげに俺を挑発してくる。……ふむ。確かに強くなったことは認めざるを得ない、か。


「驚いた。確かに怠け者のお前にしては成長した方か。だが――」


「では、次にテイドー様の能力値を開示します」


 また神父がそう言うと、今度は俺の能力値がウインドウに開示された。


――――――――――――――――――

テイドー・インキャリオ


クラス:【魔導士ウィザード


〈能力値〉

・体力:678

・攻撃:44

・魔法:3145

・防御:101

・魔防:1544

・技巧:79

・俊敏:837


〈クラススキル〉

『理魔法使用適性【極】[パッシブ]』

『理元素混合[パッシブ]』


〈フリースキル〉

『回復魔法使用適性【中】[パッシブ]』

『剣使用適性【小】[パッシブ]』

『魔力上昇』

『魔法効果範囲拡大』

『自動魔法迎撃』

『能力情報開示』

『気配隠蔽』

『状態確認』

――――――――――――――――――


「「「…………」」」


 その場にいた全ての者達が、絶句していた。唯一いち早く立ち直ったパーリーは、それでも顔面蒼白で俺を指差す。


「は……お、おま……魔法能力値、3000オーバー……!? その、能力値は、一体……」


「残念だったな。俺はただ、単純計算でもお前の三倍以上は努力したということだ。知っているとは思うが、この値がそのまま俺の魔法威力に直結する。……精々死ぬなよ、パーリー?」


 次に我に返った司会が、いよいよコングを鳴らす。


「……りょ、両者の能力値が出そろいました! これより……試合開始!」


「う、うわ……うわあああああっ!!」


 恐怖か、焦りか。先に叫びながら剣を構えて突撃してきたのは、パーリーだった。


 さて、シーラにも言った通り俺なりに全力で……最初から得意な魔法で容赦なく勝負を決めさせてもらうとするか。


「――爆発しろ、パーリー! 『エクスプロージョン』!」


「ぐ、ぐああああああああああああっ!」


 俺の詠唱の直後、爆発。


 突撃してきていたパーリーは突如発生したそれに巻き込まれ、見事に進路方向とは正反対に吹き飛んでコロシアムの壁に激突。そのまましばらくダウンしてしまう。

 奴は俺の魔法に対して直前に回避行動を取ってかする程度に抑えたようだが、それでもこの威力だ。


 ……やはり、今までと力関係は全然変わっていないようだな。


 俺は幼馴染(特に親しいわけでは無かったが、家柄の腐れ縁と言うやつだ)であるパーリーや生きていた頃の父としか手合せをしてこなかったが、このパーリーには一度も負けたことなど無かった。


 だが慢心はしない。やはり今回も楽勝だろうとは思っているが、一切油断をするつもりはない。さっさと潰させてもらうとしよう。


 俺が【魔導士ウィザード】として使用出来る数ある魔法の中で特に愛用しているのが、今もパーリーにお見舞いした「爆発魔法」だ。


 俺が使いこなせる理魔法には火、水、風、雷、土の全五元素があり、それらのどれかを単体行使する単理魔法、もしくは複数の元素を混合行使する合理魔法がある。


 基本的には合理魔法が強いとされ、爆発魔法もこの合理魔法に該当する。


 これは威力が高い上に硬いものも簡単に壊せ、更に相手を吹き飛ばせる優秀な魔法である。その一方、火、水、風の三元素も混ぜ合わせる必要があり使用がかなり難しい魔法だ。


 しかし、今の俺にかかればこんなものは造作も無く使いこなせる。

 

 一方でパーリーは剣から放つ「一閃」や「スピニング・スラッシュ」といった「攻撃スキル」を幾つか使いこなせる上に、雷を剣に纏わせる「ライジング・ブレード」という「属性攻撃スキル」も使える。


 しかしどれも近接攻撃であるため遠距離から攻撃出来る俺相手には全然届かない。


 故に、俺はあいつにスキルを使わせる機会すらも与えずに一方的に倒せてしまうのだ。


「くそ……が……!」


 なんとかすぐにダメージから立ち直り起き上がったパーリーも、真正面から突っ込んでもまず勝てないと分かったのだろう。奴は次々と連発される爆発魔法を何とか避けつつ、俺の背後に回ろうとしてくる。


 ……なるほど。俺の視界外ならば俺は魔法の狙いを定め辛くなり、奴の爆発魔法の被弾が減るという判断なのだろうな。悪くはない。


 だが、その判断すらも甘い。


「――スキル発動。『自動魔法迎撃』」

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