第28話 ロマンチスト
スコーピオの毒は即効性があり、かつ非常に強力な代物で、たとえ1滴でもバジリスクを死に至らせるほどだ。
リオの体に打ち込まれた蠍の猛毒。
勝負はすでに決した。
しかし相手は仮にも最強の ”獅子王” 。
ならば油断はすまい……。
スコーピオは追い打ちをかけんと尾を振り上げ、一気に距離を詰めた。
猛毒を秘めた針がギラリと輝き……。スコーピオは驚愕に顔をゆがめる。
高速で打ち込んだ尾は、リオの右手によりいとも簡単にキャッチされる。
どれだけの力が込められているのだろう?リオに握られた尾は、まるでその場所に固定されているかのようにピクリとも動かない。
「俺の爪をも跳ね返す甲殻に致死性の猛毒……大したものだ。流石は王の名を冠するだけの事はある」
レオの目がギョロリと動き、スコーピオを睨みつける。ネコ科の動物特有の、縦に割れた金色の瞳。スコーピオはその瞳と目を合わせた時、初めて被食者としての恐怖を感じた。
「残念だよ蠍王……素直に俺と共に来たらこうはならなかった」
そう言って、リオはスコーピオの尾を無造作に引きちぎる。
何が起こったか理解できず、絶叫するスコーピオの頭をもう片方の手で鷲掴みにすると、リオはその圧倒的な膂力を持ってスコーピオの頭を握りつぶした。
堂々たる王者の風格。
どうと倒れるスコーピオの体を見下ろし、リオはフンと鼻で息を吐いた。
パチパチパチパチと、やる気のない拍手の音が聞こえてくる。
振り返ると、そこには艶やかな漆黒の肌をした森の民の女。
森の民のトレードマークであるツンととがった両耳に、スラリとした手足。挑発的な目でリオを見ながらパチパチとやる気のない拍手を送っている。
「流石ね獅子王。同じ王を瞬殺するなんて、できるのはアナタくらいでしょうね」
女の言葉に、リオは不機嫌そうな唸り声を上げる。
「……どこから見ていた”サジタリウス”」
サジタリウスと呼ばれた女は、その端正な顔立ちをニヤリと邪悪に歪める。
「それ、私に聞く事かな?もちろん最初からよ」
「フン……趣味の悪いことだ」
「自覚してる。それより、毒は大丈夫なの?致死性の猛毒とか言ってたけど」
サジタリウスの問いに、リオは首を横に振った。
「知らん。この毒で死ぬのなら、俺はそこまでの男だったというだけのことだ」
「あっはぁ、アナタのそういうとこ好きよ。まるで自分の運命を試してるみたいね」
「”まるで”じゃない。俺は常に自分の運命を試している」
リオはぎゅっと拳を握り、近くにあった大木を叩きつけた。
大きな音を立てて大木がゆっくりと倒れる。
「俺は最強として生まれた……俺のこの力には、何か意味があるはずだ」
「ふふ……ロマンチストね。だから獣を率いて戦争を起こすの?かつて世界を支配し、魔王と呼ばれた存在と同じように?」
「ああ、その通りだ。一度は我々獣が世界を手中に収めることができた……力のある我らが世界を統べるのは自然な事なのだ。力もないくせに数だけは多い人間どもがこの世界の支配者だと言わんばかりに闊歩しているなんて我慢ができない」
「ふふふふふ……その理論でいくと人間の次は私たち森の民かしら?それともドワーフ?」
「さぁな……まずは人間だ。先の事は人間を滅ぼしてから考えればいい」
「私が人間たちに告げ口するとは考えないの?一応森の民は人間と同盟を結んでいるのだけれど?」
彼女の問いに、リオは呆れたように肩をすくめた。
「その肌色のせいで森の民の集落から追放されたお前が、種族のために動くとでも言うのか?」
サジタリウスは歪に口角をゆがめる。
「いいえ。もちろんそんな事しないわ……ふふ、むしろアナタが森の民を滅ぼしてくれたらどんなに愉快でしょうね」
◇
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