第27話 蠍の毒
◇
「俺と共に戦う気はないのか蠍王?今は獣同士で小競り合いをしている場合では無いと思うのだがな」
見事な金色のたてがみ。
陽光を反射してギラリと光る双牙。猫科特有の縦に割れた瞳孔が相手を威圧する。
”獅子王リオ”
王の職を冠する獣人で、その戦闘能力の高さは、同じ王の中でも頭一つ抜けている。
そんな獅子王の提案を、対面する獣人は鼻で笑った。
他の獣人たちとは少し毛色が違う。彼を表現するとしたら”二足歩行の巨大な昆虫”と称するべきだろうか?
全身はつややかに黒光りする殻に覆われ、腰の部分からは強力な毒針を有する巨大な尾が一本。
”蠍王スコーピオ”
彼は共に他種族を滅ぼし、世界を手中に収めんとする獅子王の誘いを、バカバカしいと一笑に付した。
「愚問ダナ獅子王。ナゼ私ガ貴様ノ下ニツカネバナラン?」
キーキーと耳障りな硬質な声。しかし明らかにその声には嘲りの色があった。
「下につけと言っているのではない。我ら獣が天下をとるため、協力せよといっているのだ。獣という名を奪われ、”魔物”として我らを貶めた他の種族たちに、反撃の拳を振り上げるときだ」
「フフン、マルデ人ダナ獅子王。醜イ下心ガ透ケテ見エルヨウダ」
「醜い下心だと?」
「オマエハ自分ガ頂点ニイナイ事ガ我慢デキナイダケダロウ?マルデ全テヲ手中ニ収メントスル人ヲ見テイルヨウダヨ」
「……ほう、いいよるわ虫けら風情が。そこまで俺を侮辱して、ただで済むと思っているのか?」
ギラリとリオの眼が光る。
全身の筋肉がビキビキと音を立てて隆起し、戦闘態勢に入った。
そんな一触即発の空気の中、スコーピオはダラリと脱力したまま佇んでいた。
「オヤオヤ本性ヲ現シタナ獅子王。ヤハリ仲良ク協力シテ戦ウ気ナンカ、最初カラ無カッタジャナイカ」
リオは唸り声を上げると、体を大きくたわませ、全身のバネを使って一気にスコーピオに飛びかかる。
その巨体からは想像もできない俊敏さで一気に距離をつめたリオは、一本一本が鋭いナイフのように研ぎ澄まされた右手の鉤爪を、スコーピオの体に叩き込んだ。
硬質な物質同士がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。
生まれながらにして最強。今まで全ての敵を一撃のもとに屠ってきたリオは、驚愕に眼を見開く。
彼の放った一撃は、スコーピオの硬質な外殻によって防がれていたのだ。
「自分ガ最強ダト勘違イシテイタヨウダガ……オマエハ今、ソノ傲慢ニヨッテ命ヲ落トスンダ」
スコーピオの尾がしなやかに動き、その毒針をリオの体にすばやく打ち込んだ。
毒針を打ち込まれたリオは、苦悶の表情を浮かべて後ずさる。
「致死性ノ猛毒ダ……サテ、獅子王様ハドレダケ生キラレルカナ?」
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