第23話 出会い
ラモーは一瞬で戦闘態勢を整えて振り返る。刃物を持った右手は体で隠すように背後に回し、声の主を探す。
その機敏な動作に、声の主は驚いたような声を上げる。
「おや?動けるのか。その檻に放り込まれた時は手足を縛られていたと思うのだけど」
わずかな明かりだけを頼りに、声の主を探す。
視線の先、少し離れた場所にその人物はいた。
大きな檻の中に、巨大な人型のシルエット。光がほとんど無いこの場所では、その人物の詳細を見ることはできないが、声の低さとその筋肉質なシルエットから、男性だろうという事がわかる。
檻に閉じ込められているという事実から、目の前にいる男が敵ではないと予想できるが、ラモーは何があっても対応できるよう、背後に隠した刃物をぎゅっと握りしめた。
「……おや、だんまりか。無理もない。こんな場所でいきなり知らない男に話しかけられたんだ、警戒しない方が無理だろう」
男は非常に落ち着いた様子で話している。こんな場所だというのに、肝が据わっているのか、それとも、長い時間をこの場所で過ごしているのだろうか?
「自己紹介をしようか。私の名前は……そうだな、ゴートンと呼んでくれ。うん、ゴートン……いい響きじゃないか」
自己紹介といいながら、男は明らかに偽名を名乗っている。この状況で自分の素性をさらせない人物など、信用できるわけがないのだが、男はそんな当たり前のことに、気が付いた様子も見せなかった。
「君の名前はなんていうんだい?」
ゴートンと名乗る男の問いに、ラモーは無言を貫いた。こんな怪しい人物と会話する気なんてなかったのだ。
彼女から返事が来ない事を悟ったゴートンは、少し残念そうな声音で話始める。
「……おしゃべりは嫌いみたいだね。まあいい、私はしばらくこの地下室に閉じ込められていてね、随分暇なんだ。今は戦争中だし、しばらく誰も来ないだろうから暇でね。よかったら私のおしゃべりを聞いていてもらえないかい?」
そうしてゴートンはペラペラと他愛のない事を話始めた。
昔は人工物のほとんど無い田舎で狩りをして暮らしていただとか、自分は肉はあまり食べず、どちらかというと野菜が好きだとか。そんな、どうでもいい話題ばかり。
ゴートンの話を聞き流しながら、ラモーは考える。
ここは研究室と呼ばれていたし、今ペラペラとしゃべっているゴートンも、”人が来るのはしばらく後”だと言っていた。
つまり、この場所には定期的に誰かやってきて、何らかの研究、実験をしているのだろう。
そしてラモーや、目の前のゴートンはその実験材料……。
ならば勝機はある。
実験材料だというのなら、かならずこの檻が空く瞬間があるだろう。
なぜならやってくるであろう人物は、ラモーが両手を縛られている状態で檻に入っていると思い込んでいるのだから。
その隙をつかせてもらう。
縛られているふりをして、無抵抗のふりをして檻を開けさせ、無防備な相手を隠し持った刃物で仕留める……。
一番の問題は、今が戦争中で、普段ならやってくるはずの研究者がこの場所に来られずに、放置されてしまうかもしれないという点だ。
見たところ、手の届く範囲に食料も水も無い……。数日放置されただけでカンタンに餓死してしまうだろう。
ペラペラと喋り続けるゴートンに、ラモーは一つ質問をする。
「……この地下室には、どのくらいの周期で人が来るんだ?」
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