第22話 研究室
”バーディア帝国は周辺諸国に隠れて禁忌の研究をしている”。そう言っていたのは誰だっただろうか?
ラモーが兵士二人に連行されたのは、カイエン曰く”研究室”。
巧妙にカムフラージュされた、秘密の地下室への入り口。
階段を下る。濃い血の匂いが鼻につく。地上の光になれた眼では薄暗い地下室の全容を視認できないが、それでもこの場所がかなりの広さを持つことはわかった。
引きづられるようにして地下室を歩きながら、脱出に使えそうなものがないか周囲を見回す。
鉄のゲージに入れられた動物。ガラス瓶に詰められた青く発光する液体。動物を解体するのに使っているのだろう、小さな刃物……。
ラモーは自身の右腕を掴んでいる兵士の、油断している鼻っ柱に頭突きを食らわせた。
鼻の折れる感触が頭に伝わり、不意打ちを食らった兵士は鼻血を吹いてのけぞる。
しかしそこは流石にプロ。反対側にいたもうひとりの兵士は、慌てることなくラモーの頭を殴りつけて押し倒し、拘束する。
「観念しろ狂犬。いくらお前でもこの状況では逃げられん」
「へん、どうだかな?両手が使えなくてもテメェの鼻を噛み切ることくらいはできるぜ?」
啖呵を切るラモーに、兵士は苛立たしそうに舌打ちをした。
鼻を砕かれた兵士がフラフラと起き上がる。
鼻血をダラダラと流しながら、相方に拘束されているラモーの顔を蹴り上げた。
「ちくしょう!この女!この場で蹴り殺してやろうか!?」
息を荒げる兵士を、もうひとりの兵士が制止する。
「やめとけ、それは命令違反だ……それに、この場所に収監されるんだ、どうせこいつは死より辛い目に合うことになるさ」
「……けっ!テメェが正気を失うまで定期的に見に来てやるから楽しみにしとけ!」
そう言い捨てると、兵士はラモーの髪の毛を掴んで乱暴に体を起こし、引きずるようにして鉄の檻の中に彼女を押し込んだ。
檻の鍵をかけた兵士は、悪態をつきながら負傷した鼻を押さえ、相方の男と共にその場をあとにする。
入り口が閉じられると、地下室の中はほとんど真っ暗になってしまった。
先程この檻に閉じ込められる途中で見た、正体のわからない瓶詰めの液体がほのかに発光しており、その頼りない光がわずかに地下室を照らしている。
ラモーは深く息を吐き出し、先程頭を蹴られたときに折れた歯をペッと吐き出した。
口内が血の味に満たされて不快だ。しかし、暴れた成果は得られた。
先程暴れたドサクサで手に忍ばせた小さな刃物で、両手をガッチリと縛っている縄を切る。
ようやく自由になった両手をぐっと伸ばしてストレッチをし、閉じ込められている檻を調べ始める。
硬い金属製の檻だ。狂化のスキルを使用しても自身が怪我を負うだけで脱出は厳しいだろう……。
相手にとってのイレギュラーは、先程手に入れた小さな刃物だけ。さて、どうやって脱出するか……。
そんなことを考えていると、腹のそこに響くような低音の声が背後からかけられる。
「おや、新入りかな?ようこそ、この世の地獄へ」
◇
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