第21話 因果応報
「ほぉら、お天道様はちゃんと見てるんだぜ狂犬」
芝居がかった言い回しでケラケラと笑うカイエンを目の前に、ラモーは深いため息をついた。
昔は敵陣に一人で飛び込んで行って、スキルを発動させることしか能がなかった彼女も、経験をと実力を積み重ね、スキルに頼らずとも敵を圧倒する術を身につけた。
それから特攻以外の仕事も受け持つようになったのだが……。今日ほど素直に特攻隊に志願すればよかったと思う日は無かった。
ラモーが請け負った仕事は、いわゆる奇襲。陽動となる別部隊が派手に動いている中、背後から敵の拠点を潰す役割だ。
そして今目の前には昨日酒をぶちまけた男がヘラヘラ笑いながら立っている。要するにラモーと同じく奇襲部隊だということだろう。
「軽く1~2杯酒を一緒に飲んでくれりゃあ、こんな気まずい思いをすることも無かったのになぁ狂犬。アンタ、昨日顔に酒をぶちまけた相手に対して、背中をあずけられるかい?」
顔は笑っているが、その瞳には怒りの色が見えた。
傭兵なんてそこいらの野党と同じ無法者の集団だ。戦のどさくさに紛れて同じ味方を刺すなんてことも日常茶飯事だった。
返答が面倒になったラモーは、神速の素早さで腰に下げていた片手斧を抜刀して、その刃をカイエンの首筋にあてがう。
そのスピードに反応できなかったカイエンは言葉を失い、ダラダラと冷や汗を流した。
そんなカイエンに、ラモーは静かな声で忠告する。
「アタシは一度だって他人を信用したことは無い……背中を刺したいんだったらやってみな。その変わり、その時はアンタの首をその下らない体から切り離して自由にしてやるからさ」
そして刃を引っ込めて再び腰に下げる。カイエンは真っ青な顔をして無言でうなずいた。
警告はしたものの、あの手合いは平気で背後から刃を突き立ててくるだろう。警戒はしておかなくては……ラモーはそう心に決めて、仕事に臨むのだった。
「”その時はアンタの首をその下らない体から切り離して自由にしてやる”……だったか? 不思議だなぁ、俺の首はまだ胴体と仲良くやっているみたいだぜぇ?」
下卑た笑い声を上げるカイエンを見上げる。
奇襲は失敗した。
部隊が突入した時には、すでに敵の拠点は空で、それが罠だと気が付いた時には手遅れだった。
拠点に放たれた睡眠の魔法。何の備えも無かった部隊は無力化され、敵軍に捕縛される。
他の奇襲部隊はすべて殺されてしまった。生き残ったのはラモーとカイエンの二人だけ……。
しかし、両手足を縛られたラモーと彼女を笑いながら見下ろすカイエンでは生き残った意味が全く違っているのだが。
「いわゆるスパイってやつだなぁ。この奇襲は俺が情報を流したおかげでバレバレだったんだよ……他の連中には少しは悪いと思ったから、眠っているうちに安らかに死んでもらったが……」
ギロリと血走った目でラモーを見下ろす。
「狂犬、お前はそうはいかねぇ。俺をさんざんコケにしてくれた例だ。特別に生かしておいてやるよ」
地面に横たわるラモーにペッと唾を吐きかけ、カイエンは周囲に控えていた兵士に指示を出す。
「この犬っころを”研究室”に連行しろ」
◇
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