第20話 馴れ合い

「アンタが”狂犬”のラモー? へぇ、けっこう美人さんじゃん」

 傭兵たちが次の仕事を前にして集まる。安酒が飲める居酒屋。

 一人酒を飲んでいたラモーに、へらへらと笑いながら話しかけてくる軽薄そうな男。

 ラモーはジロリと冷たい視線を送り、無言で手元の酒を飲んだ。

 幼いころから傭兵団に身を置いていた。こういった手合いには慣れている。

 無視を決め込んでいるラモー。しかし、男はそんなことはお構いなしに対面の席にどっかりと腰を下ろす。

「俺、カイエンっての。今回の戦、参加する予定なんだけど、アンタもだろ?」

 カイエンと名乗る男の問いに、ラモーは無視を決め込む。馴れ合いに興味はない。

「今回の相手はバーディア帝国だ。あの国は怖いぜぇ。軍隊の強さだけじゃない、知ってるかい?バーディアが周辺諸国に隠れて研究してることをさ」

 聞いてもいない事をペラペラと喋り出すカイエン。たいていの相手は、こちらが虫を決め込むと逆上するか諦めて帰るのだが、この男の図太さは何なのだろうか?

 ペラペラと喋り続けるカイエンの顔に向かって、ラモーはコップに残った酒をぶちまけた。

「おっと……これは……」

 驚いた様子のカイエンの胸倉を掴み、ぐっと顔を引き寄せ、ラモーは彼の耳元でそっと囁いた。

「ピーチクパーチクよく回る舌だな。その舌を引きちぎられたくなけりゃ、二度とアタシに関わるんじゃねえ」

 そしてドンとカイエンの胸を押すと、ラモーは立ち上がり、酒場を後にした。

 せっかくの仕事前の酒が台無しだった。

 立ち去るラモーの背後から、カイエンの声が聞こえる。

「その態度はいただけないな!いつか痛い目見るぜ”狂犬”!!」

 その負け惜しみに、ラモーは振り返ることなく中指を立てた右手を背後に見せつけた。

 痛い目を見る?

 くだらない。

 傭兵団に売られた時から、ラモーの人生は常にどん底だというのに。

 





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