第17話 牛の獣人
逃げ惑う村人たち。
それを追う多種多様な魔物。
その後方で豪快な笑い声を上げる牛頭の男。
「逃げろ逃げろ!逃げ回らなければ狩りが楽しくないじゃないか!!」
平穏な村は一瞬で地獄へと変貌する。
ラモーは乾いた唇をぺろりと舐め、両手に斧を握りしめて、一歩前に出た。
「……今回は前線に出ないでくれよゴートン。大丈夫……きっとうまくやれるからさ」
「ラモー……何を……」
ゴートンの制止も聞かず、ラモーは走り出した。
目標は牛の獣人。
あいつさえ仕留めれば、他の有象無象は問題なく対処できるだろう。
ラモーは迷わずにスキル”狂化”を発動する。
瞬間、彼女の理性は弾け飛ぶ。
ただ目に映るものをせん滅する獣へと成り果てたラモーは、凄まじい勢いで目の前の牛男に切りかかる。
自分が狩る側だと慢心していた牛男は、突然のことに反応が遅れ、武器を構える間もなく左肩から右脇腹にかけての一撃をまともに受けることになる。
固い皮膚が刃に切り裂かれ、宙にパッと鮮血が飛び散る。
牛男は舌打ちをして、その巨大な拳でラモーを殴り飛ばした。
かなりの距離を吹き飛ばされ、近くの建物の壁に激突するラモー。
牛男は怒りに打ち震えながら武器を構えた。
それはヒューマンの成人男性ほどの大きさをした肉厚の山賊刀。
どれだけの重さがあるのか想像もできないその鉄の塊を、牛男は軽々と振り回す。
ラモーの与えた傷は、範囲こそ大きい者の内臓までは届いておらず、致命傷には程遠い。
山賊刀を構えて、悠々と距離をつめてくる牛男。しかし、次の瞬間彼は予想外の出来事に呆気にとられた。
「……なんだあの女?何をしている」
パッと立ち上がったラモーが、たまたま近くにいた村人に襲い掛かり、その体を八つ裂きにしたのだ。
呆気にとられる牛男。
しかしスキルを発動したラモーは、視界に入った獲物を区別しない。
人にも獣にも平等に襲い掛かる。
その姿は、まさに”王”に統率される前の、主としての”獣”の本来の姿と酷似している……。
自分の配下である獣たちにも襲い掛かるラモーの姿を見て、牛男はぶんぶんと首を横に振った。
行動原理は理解できないが……理解する必要もない。アレは敵。それだけわかれば十分だ。
しかし、そんな牛男の前に大きな人影が立ちふさがる。
「彼女の元へ、行かせはしない……いかに彼女が戦士としての高みにいようと、まだ”王”と相対するには早いみたいだからね」
「……ほう、”王”を知っているか山羊の獣人。何者だ?」
「我が名はゴートン……何者なんて大したものじゃない。ただ、お前の前に立ちふさがるものだよ」
「ふふ……そうか。シンプルなのは嫌いじゃない。俺は”牛王”タウロス、血沸き肉躍る戦いを望むものだ」
◇
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