第14話 舞

 カーテンのスキマから差し込んできた朝日で目を覚ます。

 ラモーは、隣で大いびきをかいているゴートンを見て優しく微笑み、その山羊頭の頬に軽く口づけをしてから起き上がった。

 戦いの中で生きてきた。

 誰かを傷つける事しかできないのだと思っていた。

 だからこそ、今この瞬間……他人を愛する事ができている時間は、彼女にとって奇跡に他ならないのだ。

 二人は地図にも載っていないような、さびれた農村で小さな家を買い取った。

 買い物をするにも、近くの街まで歩いて半日はかかるような田舎だったが、それでも住人は優しく、明らかに人外な見た目をしたゴートンを快く受け入れてくれた。

 ここなら二人で静かに暮らしていけるかもしれない。

 バジリスク討伐の報奨金はかなりの額で、贅沢をしなければ、しばらくは遊んで暮らせるだろう。

 二人で畑を耕すのもいいかもしれない。

 ゴートンと二人で農民のように穏やかに暮らしている姿を思い描き、ラモーは小さく笑った。

 水瓶からコップで水を汲み、一気に飲み干す。

 乾いた体に水がしみわたっていき、思考が一気にクリアになる。

 枕元に置いていた二つの手斧(長年の傭兵経験のせいで、武器が近くにないと落ち着いて眠れない)を腰に下げ、ラモーはゴートンを起こさないようにそっと家を出た。




 朝日は昇ったばかりのようで、村はシンと静まり返っている。

 他の村人が活動を始めるのは、もう少し時間がたってからだろう。

 ラモーは村のはずれまで移動すると、周囲に誰もいないことを確認し、腰の手斧を抜いて素振りを始める。

 どうせスキルを発動したら理性がなくなり、武術を学んだところで意味がない……そう考えてしばらく鍛錬をしていなかった。

 しかしそれではダメだ。

 あの日……、蛇女の襲撃に対してスキルを使ったあの後、目を覚ますと目の前には血だらけのゴートンの姿があった。

 彼は何も言わなかったが、ラモーは察したのだ。

 自分の力が足りなかったのだと。

 だから後衛であるはずの彼が、全線で血まみれになってしまったのだと。

 力が欲しい。

 守るために、もう愛する人を傷つけないために……。

 澄んだ朝の空気を、二本の剣線が鋭く切り裂く。

 正式に学んだわけでは無い、実践の中で研ぎ澄まされたその動きは、どこか舞のように洗練され、美しかった。





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