第13話 怨恨

「くそっ!くそっ……あの山羊頭の獣人……殺してやる」

 蛇王ヴァーゴは眼をギラギラと血走らせ、自ら引きちぎった右腕の傷口に、キツく布を巻き付ける。

 勝てない相手ではなかった。

 現に、最初は二人を圧倒していたはずだ。

 計算が狂ったのは後衛であったはずの山羊頭の男の異様なタフネス。そして高レベルの治癒術。

 だが、次はない。

 このままでは終わらない……終われない。

 ”王”の名を冠する自分が舐められたままでは、それこそ”獅子王”に殺されてしまう。

 ブルリと身を震わせる。

 ”獅子王”

 かの存在こそ今代に生まれ落ちた”獣王”。”王”たる存在を束ね、獣をまとめあげる”王の中の王”。

 名を奪われ、地に落とされた同胞たちの希望。

 薄汚いドワーフ、高慢なエルフ、そして……この世界の支配しゃぶっている憎きヒューマンを屠り、再び獣がこの世界の頂点に立つ。

 弱肉強食。

 強きものが生き残り、弱き者は食われる。

 ならばこそ、もっとも強い獣こそがこの世界の支配者にふさわしい。

「槍も……右手も失った。だが関係ない……あの山羊頭を左手で引き裂き、狂戦士の女をこの牙で噛み殺してやるわ」

 そう叫ぶと、ヴァーゴは狂ったようにケタケタと笑い出す。

 その憎しみが、狂気が、彼女の新たな力を呼び起こす。






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